さくら さよら さら さら

きみが少し元気なときに
庭に植えた白梅に
真珠の粒がころころと
それは春の序章とも言える

きみが好きだった春の 前髪が見えて
それはきみの季節とも言えるが
メディアから塗りつけられる春の音(ね)が
きみのおわりばかり 強くなぞる
から
きみのおもかげの手を引いて
散歩に出る
ほら、お花。
抱き上げて香りを教える
ひとさし指が反対向き
あ、しゃ。
鉄橋を揺さぶる京王線の がたん ごとんが
多摩川に響いてゆく
めじろが落とす花びら
花びらにはどれにも
さよならと書いてある

うぐいすを追いかけて
梅の香りの公園へゆく
ほら、うめの花。
背伸びして花を撫でる手は
あ、わんわん。
反対向きの鳩に向かって駆けてゆく
ベンチで本を読もうとした
老紳士が席を移ると
見えないけれどあの木の枝に
ほーぅほけきょ と鳴く

きみが詩ったクリームのくちばしは
みんな大きく口を開けて
青空からのえさを待っている
ほら、白もくれん。
大きな、お花。
きみのおもかげは黙ったまま
足もとの花びらを 一枚拾う
花びらにはどれにも
さよならと書いてあって
さよなら さよならと 降りかかる
きみのおもかげは
クリームの花びらをかじって
小さな歯形が “な“ を欠いて
さよら さよら さら さらと

また さよならの序章
ほら、さくら。
きみのおもかげは くるりと振り返り
誰かが放ったパンをつつく 鳩とむくどりを
あ、わんわん。 って…
ひとりになった母は さくら さくらと唄う
明日の雨上がりには
ほぅ… とためいきをつきながら
一輪 百輪 千輪と
物語が開く
さくら さくら
さよら さよら
さら さら
花びらにはどれにも
さよならと書いてある

*

投稿者

東京都

コメント

  1. 色彩が目に浮かぶようですね

  2. 白梅、白もくれんの花びらの白さに、切なさがとても象徴的に表現されていて、深く想いが胸に迫って来ました。

    たちまこさん、渡です。「姐さん」のハンドルネームで参加しました。
    どうぞよろしくお願いいたします^_^

  3. timoさん
    ありがとうございます。
    さっきなんて書いたかな…(消えた)
    あ、春の花がバトンタッチしているような。

  4. 姐さんさん
    ありがとうございます!
    頂いたコメント、作者の方が思い出したり、気付かされることが多くて、脳がキリッとしました。

  5. まずタイトルの擬音が優れていますね。そして〈 花びらにはどれにも/さよならと書いてある 〉は、名フレーズだなぁ、と思います。

    哀しみの次元を変え得る春の叙情であり、詩は時に人の歴史を物語る、と思いました。

  6. 服部さん
    ありがとうございます!読むと嬉しくてにやけてしまうようなコメントです。光栄です。
    悲しみはどこまでもそこに在りますから、美しく在って欲しいなと思います。

  7. モーヌ。が俺に教えてくれたことを
    もう一度やるしか無い
    そう思いました

  8. 那津ん
    うん。あの子にも教えてあげてね。

  9. 読後、柔らかなかなしみが湧き上がってきました。
    さくら さくら / さよら さよら / さら さら
    声に出して読んでみると、なおさら、…ですね。

  10. 長谷川さん
    ありがとうございます。
    何度か朗読する機会があった詩です。
    徐々に消えゆく儚さは、かなしく美しいなと思います。

  11. やっぱり、モーヌ。さんだ
    私の詩にもいつもやさしいコメントを残してくれる人だったことを思い出しました。
    この詩を読んで、やっぱり「さくら」って響きは日本語の中で1番優しいなって思いました

  12. ナツコさん
    コメント嬉しい!ありがとうございます!
    モーヌ。のおもかげも、もう14歳になりました。(似ている)
    進む季節、育つ子ども、置いていかれているような気がして、さよならをひとつひとつ確かめるようにした、とある春のことです。

  13. 初めまして(と言った方が良いのでしょうか)。さて、うん。この詩に咲いている大切な思いがすてきです。そして、「明日の雨上がりには/ほぅ… とためいきをつきながら/一輪 百輪 千輪と/物語が開く/さくら さくら/さよら さよら/さら さら/花びらにはどれにも/さよならと書いてある//*」という思いの流れがすてきです。

  14. 風に揺れるような情感が伝わってきます。
    さくら の音が さら さら
    している感じがいいですね。
    素敵な詩です。

  15. こしごえさん
    お久しぶりのような気がします。ありがとうございます。
    少し読むことを意識して書いた詩なので、流れを感じてくださって嬉しいです。

    竜野さん
    ありがとうございます。
    さくらってさらさら散っているように見えたのです。
    美しい音です。

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