深夜、食パン3枚

夜中にひとり食パンをかじる
バターをつけないで
ジャムをつけないで
電気もつけない

冷蔵庫の前にしゃがんで
はみはみ
虫みたいに食べる

どこか外国から船に乗せられて
海をこえてきた小麦たちは
潮の香りがしみついて
夜中の涙と同じ味がする
長い長い旅をして
小麦たちはふるさとを忘れた

おなかがへったから食べる
でもほんとうはおなかはへっていない
からっぽの胸がよどみを求めて
欲張りなひな鳥みたいに
きゅ、きゅう、と鳴くから
パンを入れてやる
するとしばらく静かになる

ぼくは真夜中の孤独をうずめようとして
遠い外国の
うすめられた土の恵みを摂取するけれど
充ちたのはあらかじめ充ちていたおなか
空っぽの胸には
トラクターの排気が残ったから
ベランダに出て
下手な口笛をふく

汽笛をよそおって
小麦たちを
帰りの船にのせよう

投稿者

東京都

コメント

  1. どこかキュートなんですが、4連目の寂しさに震えますね。

  2. 自己の空腹と質素な食パンが小麦を育てる労働者の空腹と、いつになったら満たされるのかと。海の向こうを思いました。

  3. 「満たされない孤独」というのは、詩の原点かもしれないな…と、あらためて感じさせられました。

  4. 真夜中の孤独な心が、パンの小麦に同調して思いを馳せるのが、詩人らしいひと時と思いました。

  5. 寂しさをぎゅっとひっくるめたかっこよさを感じました。

  6. 無邪気な語り口に食パンの食感も重なってきます。とてもいい詩と思いました。

  7. 最初からずっときてからの「汽笛をよそおって/小麦たちを/帰りの船にのせよう」というのがすてきです。

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