微熱

  
── 微熱が台所の音に責められている

頑丈な米袋から差し込まれる骨太の手は
台所から 私の胸倉へ押し入ってくる

洗い場の指たちは
羽釜の水をかき回し
じわりじわり しこりを擦りつづけている

シンクを叩く水音は はね上がり
寝室の私の頬にも 降りかかるが
しまわれていたままの米袋の手は
胸元を掴んだまま ゆるさない

炊飯器を仕掛けた指たちが
温めて膨れてできた仕舞事

振り返れば小さな虫が 一匹、
ペーパータオルの隅を カサコソと
夜の最中を逃げていく

一生懸命だけどみっともない。
生きることに 後ろ指をさされながら
朝になれば食事をする
(死にたくない、からだ

多くの言い訳を詠いながら
台所の音が 私の頭をうずめていく

シンクの前に立つ人の
思いつめた横顔の下を
とてつもなく うしろめたい水が
落ちて拡がりつづけているが
私は その音を
止めることができない

投稿者

京都府

コメント

  1. きれいな描写ではないんだけれど焦燥感というかな、感じるものがありました。

  2. りゅうさん コメント、ありがとうございます。

  3. 主観と客観と、うしろめたい思いと、欲望と、人間の業のようなものと、一言では言い表せない「なにか」が胸につかえて残りました。

  4. 石垣りんさんの生活詩を、彷彿させます。7連目の、「一生懸命だけどみっともない。」から始まる4行が、強く印象に残りました。生きるということの本音を表現していらっしゃる。

  5. timoleonさん、コメントありがとうございます。

  6. 長谷川 忍さん、コメントありがとうございます。

  7. 為平さんの描写、凄いなって、毎回思います。

  8. 暮らしの断面を隠したり晒したりしながら
    みっともなく生きていくことが
    人生なのですね。

  9. たちばなまこと/mikaさん
    コメント、ありがとうございます。

  10. nonyaさん
    コメント、ありがとうございます。

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