渋滞

溶岩のような夜の渋滞
さっきからの雨で赤く滲む
この先の先の先では
きっと事故があったんだろう

想像力が枯渇した多くの人間が
この世に住んでいる
想像しないということは
未来を邪険にするということじゃないのか
この世は自分一人で成立してると
そうかそれはよかったな
その目ん玉に映るものだけで
その先のことなど想像しない

雨はやがて激しく
川を溢れさすだろう
堤防は決壊して
灯りを黒く塗って回る
すべての赤い火を消し去って
黙とうする
すべての赤い文明を流し去って
黙とうする

大勢がこぞって
蜂をつついた様にがくがくと
問題点を指さし騒ぎまわる
涙ながらにマイクに応える
死ぬまでやってろ
雨はやまない
雨は明日も明後日もその先もやまない
転がる小さな靴
雨が降る

車は動かない
溶岩はゆっくりと流れる血
ラジオでは繰り返し
あの先の先のニュース
雨が屋根をドラムのように叩き
すべてをかき消してしまうが
問題点を指さすだけで
誰も
ハンドルを離さない

想像してみてくれ
自分がどうすれば
この世はどうなのか
明日は今日と同じようだとか
あまりに薄っぺらい
そんな世界の住人の顔
あれは俺だ
あれはお前だ
あれは俺たちの子供だ

どこにも辿り着かない
この渋滞の先
罪のない者が
意味もなく死んだ
並んだ花とお菓子も濡れる
雨よ血だけは洗い流すな

投稿者

岩手県

コメント

  1. もちろん愛とは想像力のことです。愛無き世界とは想像力の無い世界のことです。愛が世界を救うというのは想像力が世界を救うということです。全ての悪しきものの原因は想像力の欠如です。ネットには想像力のない言葉が溢れかえっていて今日もまた大渋滞が起きています。

  2. 愛無き世界とは想像力の無い世界というのは素晴らしいなぁ。想像力なく発信されるものを目にすると文字や言葉などいらんのじゃないかと思う。

  3. 渋滞時のテールランプって、ナウシカに出てくる王蟲が怒りにまかせて向かってくるようにオレには見えるんだよな。貧困な想像力だけど。もはやそこには創造などないのかもしれないね。言葉はないのに騒々しいだけだ。

  4. 王さんの厳しさと悲しさと、それを包む優しさが伝わってくる気がするなぁ。通勤列車の遅延アナウンスにも同じようなイメージがあります。

  5. 想像力をふくらませる。つまり、考える、感じる、接触する。作者の憂慮は、どこか身体的な部分につながっていくのではないか。そんなことを、想像してみました。三連、四連にかけての、雨の描写が、読んでいて辛い…。

  6. トノモトさん
    ああ王蟲の怒涛の攻めね。思い浮かぶね。創造はなくまるきし条件反射で文字を発するとき、人はAIに取って代わられるのだろう。

    あぶくもさん
    僕はあちこちにぶつぶつ言ってるただの迷惑なおこりんぼです。
    遅延のアナウンスにもぶつぶつ言ってるかも。

  7. 長谷川さん
    簡単にものが発せられる世界というのはもちろん良い面、便利な面もいっぱいあるのだろうけど、なおさらその都度の想像力は必要になりますね。ステレオタイプな言葉を少なくても個人に向けてはいけないと。
    また一番のまとめ役が「今すぐに日本中の通学路を点検しろ」と言ったときはほんとに想像して言ってるのかなって思いました。

  8. 全体を通してとても力のある詩だと感じるのですが、特に最終連からの最終行の思いのあることばに たましいが打たれます。

  9. こしごえさん
    ありがとうございます。悲惨な事象がなくならないのは当たり前だよとしている世界に、ほんとにそれ当たり前なのかといつも質問したいのです。

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