眠りゆく春
あなたが忘れていることを覚えている。腫れたまぶたが瞬いて、おそらくわたしの欠片のようなものが落ちていった。不定形の心はいつでも崩れかける素振りをする。ほころんだ結び目をまとめて捨てたあとに聞こえる機械音。時折均す地平。あなたが忘れていることを覚えている。あなたが忘れたとしてもわたしだけが覚えている。机の下で息を潜めている。空が青い。おそらくわたしの欠片のようなものが失われていった。それはなんら悲しいことではなかった。わすれた。すべてを。あなたのこと以外。それもまたなんら悲しいことではなかった。歩みはゆっくりと止まる。さよならを言えない別れを庭の隅にこっそり埋めて。心臓。あなたが忘れたことを覚えている。眠る。夢でさえ逢えない。あなたが忘れていることを忘れられない。忘れたくない。冷たい春風がほころびに忍び込み崩れかけた心を拐っていった。フラッシュバック。
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