『おわかれ』

 いのちは柔らかな曲線を描いている。触れた端から消える儚さを覆い隠すように、それらは一枚の大きなベールとなって、世界全体を包んでいる。
 こころはゴム毬のようなものだった。伸縮性があり、中は空洞になっている。強く壁に投げつけてみるとばかみたいに弾んでどこかへ行ってしまいそれきり戻ってこなかった。
 愛おしさは歪な形をしていた。それに何気なく触れてみると、冷たい金属の表面を撫でた時みたいに、わたしの手はほのかに痛む。
 ひとは皆おなじ場所へと帰ってゆく。そこにはなんの差異も存在し得ない。ただ穏やかな水が満ちている。満ち足りていることは幸福だった。幸福を数えながら、水面の波紋は歌っていた。

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