即興/北の風10m
震えているのは
ぼくのささやかで深刻な欠落です
今日はとても風が強いから
取り繕いのバリアーも
秒で剥がされてしまうね
飛んで行ってしまう
あの日もこんなふうに
ちいさな僕は塀の蔭で震えていた
家には入れてもらえなかったんだろうね
あまりに寒いと人間は泣けないんだ
でも
何かを失ったのはその日じゃない
欠けたり割れたりというのは
べつに比喩とは限らなくて
文字通りにひびが入ることもある
そこから滲み出る血液とか何やらを
秒で気化させて風が運んでいくんだ
そうやって流されてくる誰かの傷を
風に逆らって呼吸するたびに
ぼくは吸い込んでいるのかもしれない
だから余計に悲しくなって
風のなかでは出ないはずの涙を
上下の瞼で一生懸命握りつぶしてる
この風はいつやむのかなあ
そろそろぼくは割れてしまいそうだ
これは比喩として
あるいは比喩じゃない本当のこととして
コメント
即興とは思えない構成美。そして北風ひとつでここまで展開できるのもすごいなあ。
トノモトさん
コメント嬉しいです。ありがとう
「即興」とタイトルをつけてる詩は「製作時間3分以内」「推敲しない」の縛りで書いているので、厳密には「即興」ではないのかもしれないですが、やっぱり後からあちこち直したくなります(笑)
読んでいく内に次から次へと広がる「ぼく」の世界に感じ入ることが出来ます。
あまねさんの筆力がすてき。
追記
個人的に私生活などで先頃には「大切な悲しみ」ということを思っていたのですが、この詩には大切な悲しみがあるなぁ、と思います。いのちの悲しみというかですね。うん、大切。
こしごえさん
いつもコメントありがとう。励みになります。大切な悲しみ…ふむ。生まれつきの悲しみというのもあるのかもしれませんね。原哀と名づけましょう(笑)
凍てついて、厳しい風ですが
素敵な強さがあります
素晴らしい
繊細な、哀しみの極みを感じました。比喩の裏側にある作者の本音に、ぐっときます。
那津さん
コメントありがとうございます。
しなやかでありたいです。
長谷川さん
ありがとうございます。原体験のようなもののさらに奥に本当の原体験があったんだと思うんですが、なかなかそこまで辿れないのが何とももどかしかったり。
重たいことをさらさらと書き流している感じが良いなと思います。
即興ならではですかねぇ。
まことちゃん
ありがとう。だいぶ自分の中で感情がこなれてきているのかもしれないね。
you know