幽霊

春霞の夜
街は半透明の静けさ
見上げた先には朧月

こんな夜には
淋しげな柳の下に
幽霊がいるものと

池の縁に赴けば
定説通りたたずむは
悲しげな白い人

胸に迫る苛立ちを
黙っておれなくなり
僕は幽霊にあわれを解く

遠慮を履き違えた無関心と
個人の尊重が転じた
薄暗き孤独の海

露骨なる自己主張は
頼りなき小舟を
翻弄する大波の如し

いつ止むとも知れぬ嵐の中
小舟の舵を握り続けるしかない自分は
生きながらにして現世に未練はなし

幽霊の悲しい目の先を辿れば
明日にも千切れそうな
僕のほどけた靴紐

やがて幽霊の心は
この世を見限ったか
白い影のあとに残るは一段と深い闇のみ

そういうわけで
春霞の夜だからと
柳の下に足を運んだとて

幽霊はもういないが
未練の抱きようない世に
僕を尚つなぎとめるものは何?

投稿者

大阪府

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