Bench

 手入れが行き届いた花壇のかたわらに
 簡素な木製のベンチが一脚
 木陰で古びた小型物置と並んでいて
 ふだんならば気づかない

 そこに腰かけている
 ひとりの男のほか、だれもいない花壇
 然りげ無く歩み寄る私は
 鼓草の咲いている砂地を啄ばむ
 一羽の鳩でしかなく
 目の端がとらえる男もまた
 岩の隙間に隠れる渓流魚のように
 思想のかげにはいっている

 男のすこし前屈みな姿態と
 膝上の腿にのせた両手が
 かくし残した尾や鰭のようで
 ちらちらと椅子までも美しい

 もろもろの花たちに見つめられながら
 男の眼には見えるのかもしれない
 公園の隅にある円形花壇の
 洞穴に吹きぬけてゆく風と空とが

 もっと歳をとったら
 私も座ってみたいけれど
 その時まで廃棄されず
 花壇のかたわらに在るだろうか

 鳩でいる私は男へ尻尾を向けて
 こどもたちのはしゃぎ声が
 鴇色の夕映えに散っていく

投稿者

滋賀県

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