翡翠の呼吸、紅の襷

翡翠の呼吸、紅の襷

八十八夜の譜
大地が黄金の眠りから覚め
深緑の海へと漕ぎ出すための祝祭
いま最も瑞々しい命のエッジが生まれる

黒い覆いの下
和らいだ陽光のなかで
紺の絣(かすり)に
紅の襷を十字に掛けた 
朝露の茶摘み娘たちが舞う

彼女たちの指先が  
翡翠の宝石に触れるとき
小気味よく響くのは 
目覚めたばかりの大地の心拍

「プツプツ、パチパチ」

そのリズムは 
風が運ぶ旋律となり
籠の中に積み重なるのは 
香り高い時間の断片
いまだ誰の喉も潤していない 
潔い苦みと
土と水が慈しんだ 
無垢なまでの甘やかさ

摘み取られたのは 
ただの葉ではない
それは 
冬を耐え抜いた誇りと
今日という日を祝福する 
光の雫そのもの

やがて一服の茶となって 
この八十八夜の静かな感興が
翡翠色の残り香となって漂い
語り継がれてゆく

投稿者

静岡県

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