睡蓮
青年: 我が友よ、知恵を貸してくれ。僕はあの人と話がしてみたい
友人: あの人は君なんかが話しかけて良い人じゃないんだがね。しかし、君がそこまで言うのなら、力を貸さないわけでもない。感謝の印は、君の上着の金ぴかボタンで良いよ
青年: ありがとう! 金ぴかボタン? ああ、これをあの人への贈り物にすれば……
友人: 金ぴかボタンは僕にだってば。のぼせ上がって、こっちの話をまるで聞いていない!
青年: 従者殿!これをお嬢様に……
従者1: なにこれ。鍍金のボタン……
従者2: お嬢様にだってよ
従者1: こんな物を持って行けば、我々がお叱りを受ける
従者2: 愚か者は鍍金を過大評価している
青年: 愚か者って僕のことだ
友人: そのようだ
青年: どうしたら良いんだ?
友人: 金ぴかボタンは引っ込めて、とりあえず僕に渡すんだな
従者1: これは一度受け取りし物。お返しすることは出来かねる
友人: やや! それは僕が頂く約束の品!
従者たち: 逃げろ、逃げろ!
友人: 待ちやがれ!
青年: 僕を置いていかないで……。
目覚めれば
卯の花影のベンチ
傍らに脱いで置いた
上着の金ボタンの
糸がほつれ
今にも零れ落ちそうな
ベンチの縁より
今しがた飛び立ったか
トンボ一匹
青年の目を覗いていたが
やがて飛び去った
夢を振り落とすように
向こうへ目をやれば
湖面に映えるは
日の光受けて
花びら煌めかす
一輪の睡蓮
葉の上に座る
カエル二匹
トンボに驚かされたか
波紋残して消えぬ
青年は上着を肩に
ベンチを去り行く
鍍金のボタンが
日輪に勝るはずもなし
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