夕暮れて
土手を上がると
一気に視界が開けた。
左に葛西橋
右には
東京メトロ東西線の鉄橋が見える
河口に近い
川はゆったりした水を湛え
流れていく。
川岸まで下り
東西線の鉄橋を潜る
上げ潮なのか
水際に造られた遊歩道が
少し水に沈んでいた
釣り人の姿だけ
濃いシルエットとなって
行く手に佇む。
JR京葉線の鉄橋が遠望できる
その先は、もう海だ。
サクソフォンの音色が
聴こえてきた
あたりを探すと
河川敷のかたわらで
ひとりの女性が一心に吹いている
聴いたことがあるような
ないような
でも柔らかなメロディーだ。
空は、薄青から、橙に、やがて紅に
寂寥を映していく。
河口に向かい
隠れるように歩いていった
川と空が混じり合って滲んだ。
コメント
すてきですね。寂寥を感じます。夕暮れを背景に釣り人のシルエットと女の人の吹くサクソフォンの音色とが孤独を深めるように感じました。
佐藤宏さん、荒川の河口近くです。荒涼とした雰囲気が漂っていました。快晴でしたので、夕空がとてもきれいだった。ゆえの寂寥感だったかもしれません。
全体として好きなのですが、最後の一行がとっても好きだな。
あぶくもさん
空の紅色(…茜色かな?)が、川の青色に滲んでいったような感じでした。冬の夕暮れは、独特の寂しさがありますね。
写真すてきです。写真と詩が融合しています。
具体的な橋などの名前を言っていることと長谷川さんの描写力の高さなどで、この詩に現実感などを出す工夫がしてあって、読者である私がこの詩の内容を追体験しているような感じがします。それらのことも関係しているのか味わい深くて薫り高いこの詩であると感じます。
長谷川さんがこの写真を写した時の感じ、その場の夕暮時の感じを詩でよく表していますね。
この詩が大好きです。
こしごえさん
ありがとうございます。
東京メトロ東西線の車窓から川を眺め、実際に歩いてみたいなと思って出掛けました。そんな感じの散策が私の場合多いです。サクソフォンは、最初、男性だと思ったのですが、よく見たら女性だった。ショートヘアが似合っていました。
何か悲しいことがあって川べりを歩いたのでしょうか? いいえ、そんなことがなくても感傷的になるのは詩人の常でしたね。
babel-kさん
散策しているうち、川べりに紛れこんでしまったような感じでした。もともと寂しい場所が好きで、荒涼とした川べりとか、霊園とか、よく歩きます。夕暮れから宵が多いかもしれません。
情景を表していて、誰も何も言わないのだけど、たまらない気持ちになります。
この裏に、胸熱い決心や、ぐっとこらえた涙粒や、誰にも言えない秘密などがぎゅっと詰まっている気がして。。
夕暮れていく景色と共に、伝わってくる気持ちたち。。意図しているかわかりませんが、そんな感想を持ちました。
ザイチさん
そんなふうに読んでいただけると、作者として嬉しいです。風景描写の中に人の情感を重ねたところはありました。風景、…街も、またひとつの生きものなのだなと想うことがあります。