J・G・バラードのバラード
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眼も舌も鱗もないのに、なぜわたしたちは夜の嗚咽に蝕まれる血脈しかないのだろう。まだ跳躍する弾力すら知らないのに。
立体的に再現されてぶつ切りの断面で浮腫する虚。唇が始めに降伏する。図面どおりに裂かれていく顔、アーキテクト。8102ジュールの熱量で各部陳列される煉瓦影の少女。
兵士不在のコールドゲーム。液晶がないから切開された脳幹を手に包んで10周の円環を撤収する爆心地II-4591。終わりも始まりもないから眼球だけで笑うエスプリ。
痙攣する敵性語で無人を退場する彼や彼女。
コクピット一つに覆われた魂が伝達される。どんな記憶を? どんなまぬけな哀しみを? 流刑の母体が入ったDNAコマンドが排泄するビンゴゲームになにを希う?
最期になにが生き残る?
眼を、唇を、焦がれた魂だけのわたしが、順調に繰り延べされるカタストロフィに気化した涙を吹く。
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コメント
昔、NWSFに出入りしていた友人がいいたのを思い出しました。自分としては。バラードは難解な感じがします。というか、あまり覚えていません。
babel-kさん、ありがとうございます。実は僕はバラード読んでいません。ちなみにお気に入りはスタニスワフ・レムです。
テッドチャンやクラーク好きの私には難解な詩でした。バラードというよりもイーガンやギブスンを連想しました。でも結晶世界を読み返してみたくなりました。
たかぼさん、ありがとうございます。ギブスンは『クローム襲撃』だったかな、パラパラめくりながら好きな言葉が多いなと思いました。この詩は好きな言葉のイメージの羅列といった感じで書きました。あまり内容はないと思います。
眼も舌も鱗もないのに、なぜわたしたちは夜の嗚咽に蝕まれる血脈しかないのだろう。
この書き出し、いいですね。血脈が効いています。J・Gバラードは、友人に勧められ、『時間都市』という短編集を持っています。…でも、まだ読んでいない。読んでみようと思います。
長谷川さん、ありがとうございます。今となっては僕にはあまり思いつけない書き出しです。僕もバラードの本を2冊持ってるのですが書名も忘れたまま職場の机の中に眠ってます。