満月

満月

満月の夜に
静かに息をして
ほうっと白い息
ひかるようで
生き物のいない静けさに
聴こうとするのだが
まず思い出せない

生き物のいない夜
耳をすませてもう聞こえぬ
向こうの海は満月に照らされ
無言で立ち上がる
おえらいさんたちは
ここをみらいが丘と名付けたよ
僕はその冷たい芝生に寝転ぶ

誰かがビルに立て込もって
死にたいんだ殺してくれって叫ぶ
わかりはしない
同情もない
が、無性に悲しい
炎は嘗め回し
噴煙は遥かに昇り
やがて満月をすべて覆い隠す
指のすき間から砂はこぼれ
こぼれるだけで
花はどうやっても枯れてしまうのに
声はきこえず
ただのまぼろしなのに
この丘に寝転べばいいのに

生き物がいない
やたら広々とした
みらいが丘にて

投稿者

岩手県

コメント

  1. みらいが丘。
    火星あたりから地球を見ているような、彼岸から此岸を嘆くような、そんな詩のように読めて切ないですね。

  2. みらいが丘。未来。何か予言めいている感じを勝手に受けました。
    満月。ずっと前に本で読んだことなので、確かではなく おぼろな記憶ではありますが、「月」は仏教では「真実」を表すものだと記憶しています。ちがうかな?(ちがっていたら、すみません)
    王殺しさんの詩は、音楽で言えば、重低音のベースがリズムを刻むように響く詩だと感じます。ベース好きなんです。(昔、(アイバニーズ製の)ベースをへたくそだけど ほんのちょっとの間私は引いていたし、ベーシスト好きです)

  3. 沁みます。すっごく静かに沁みてきました。
    心を静かにして、俯瞰して。

    「生き物がいない」という未来が丘の、
    青いときが思考を冷やし、考えを聡明にさせるようでした。

  4. 満月の存在は、この詩にとって、救いなのか、否か…? そのことを、今も考えています。みらいが丘、たしかに、えらい方たちが名付けそうな地名ですね。彼らは、詩人の感性とは対極の場所にいるのでしょう。

  5. 56億7千万年後のみらいが丘で、満月の夜、弥勒は、生き物のいなくなった地球を思う。花は必ず枯れるのに、死にたい殺してくれと叫んだ哀れな人間のことを思う。

  6. 綺麗に整地されて、あの出来事を忘れはしないと言いながら、結局戻ってくる人達は全員ではない。

    事情があるのは分かっている。
    でもその事情を作り出したのは自然は仕方ないとしてその後のお偉いさんだと私は思う。

    忘れられた土地で今も傾いた地盤の上で生活して、ひび割れた道路を車で走りながら。

  7. 押し殺そうとしている悲しみがすごく漏れているような。
    丘の冷たい芝生に寝転んだら、生き物であることを忘れて悲しみを拾い集めてみたいです。

    すごいな、王さん。

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