カラスの手帳
カラスの手帳を
ご存知だろうか?
電信柱の先や
木漏れ日の石の上で
カラスが手帳にうつ向いて
書き付けている姿を
ご存知だろうか?
ねぐらへと急ぐカラスが
落とした手帳を
僕は拾ったのだ
当然の仕業のように
カラスの羽のような
その真っ黒な手帳を
僕は開いたのだ
「誰からも便りを貰わぬ小生は
小生から小生へ文を綴るものなり」
「雲間のお天道様が金剛石のやうで候」
「薄紅の睡蓮が咲いたで候。明日も見に行くで候」
「山が苔むしているで候」
「風がびゅうびゅう松ぼっくりを飛ばしたで候」
「七色の雨の夢を見たで候。きれいで候」
何だか胸が詰まって
もう次の頁を
繰ることができないでいると
さっさと返しに行くよう
細君に叱られ
もう落とさぬようにと
細君が手縫いした
黒いポシェットに
手帳を入れ
僕は罪人のようにおどおどと
カラスを訪れるのであった
小生の手帳!
喜び露に羽ばたくカラスから
僕はこそこそと去った
今日も電柱の上で
ポシェットから出した手帳に
己から己へと送る手紙を
カラスが書き付けている
夢中な幸福なる姿に
泣きたくなった僕は
あふれる涙が零れぬよう
いつまでも
電柱を見上げている
コメント
黒革の手帖、ならぬ
黒烏の手帳ですね。(内容は全然違いますが)
「手押し車の僕」の相棒のカラスの持ち物かな?なんて思いました。
自分のための気づき・宝物のことばを
ちゃんと書きとめているカラス、、見習いたいです。