都会のジャングル

ビルの合間にジャングルがあった

*

最寄りの駅を降り
ジャングルを突き抜けた方が
オフィス街への近道になるので
行方不明者が絶えなった
その大半は密林の中で迷い
猛獣に襲われたというのが
警察の見解であり
骨が見つかれば
それだけで御の字だった

*

街にはジャングルを根城にしている
こどもギャング団がいた
親に捨てられた
あるいは親を捨てた彼らは
奥深くの秘密工場で密造した
美味しいお菓子やジュースを
闇市に流して生活していた

*

彼らはジャングルを熟知していた
猛獣や毒虫の出現場所や
発生する時期を把握し
木々には団のマークをつけて
それを道標にしていた
その一方で迷っている人間に
出会ったことはなかった
猛獣に襲われている人間を
見たこともなかった
ただ平和に
菓子やジュースを密造して過ごした
ボスの機嫌を損ねることが
唯一彼らの恐怖だった

*

こんな都市伝説がある
「ジャングルの入口にある売店では
 秘密の合言葉を言えば
 ジャングルの精緻な地図が買える
 雨季に出現する幻の湖の位置や
 その迂回路まで正確に書かれている」

*

誰もが一度は
それっぽい言葉を投げかけてみるが
売店の女店主は知らん顔するばかり
それもそうだ、その合言葉は
千二百音節にもなるのだから

*

さて、そのジャングルであるが
公的な地図では存在しないことになっている
そこに何か施設があるわけではない
かといって空地になっているわけでもない
空白でもなく、黒塗りされているわけでもない
そもそもそこには土地がない
そこには何もない

*

ギャング団のメンバーは
大人になると脱退し
近くのオフィスで働くことを
慣習としていた
電車で通勤することとなるが
ジャングルを突き抜けることは
決してなかった
あれだけ慣れ親しんでいたにも関わらず
マークを見つけられないのだ
かつてのボスも例外ではなかった
雑誌のインタビューでこう語っている
「魔法が解けたんだよ」
でも知らない
解けたのではなく
別の魔法にかかったことを

*

売店の女店主は
ジャングルに入ることなく
一生を終えた
売店は地下室の地図ごと取り壊され
跡にはベンチがひとつ置かれた
腰をかけるとジャングルの方から
鳥たちの穏やかな
囀りが聞こえてくる

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