葬送について

台風の季節にはよみがえる
レンタカーの新婚旅行
若い船頭さんと柳川鍋
貸切状態の宿から斜めに靡くソテツ
平戸大橋で浮き上がってたトラック
天草の青
肩越しの太陽の硝子みたいな放射線
台風一過の長崎の煌めき
阿蘇のカルデラの靄に滲む緑と牛たち
熊本城の軋む床板
夕飯は街の居酒屋で
南の地方の賑やかな照明と
週末の幸せな音を奏でる土地の言葉たち

車線変更をし損ねてもう一周したロータリー
後続車をやり過ごそうとして突っ込んだ水たまり
トンネルでよたつく車体が踏んだ白線の振動
免許を取ったばかりの私の運転に度々悲鳴をあげる彼の
横顔

彼のお葬式
記帳に落ちた友だちの涙の粒が
青灰色のグラデーションを拡げ
式場では宙の流動体になって
美しいと思った
お焼香台までまっすぐ歩けなくて
体で慟哭しながら去る友だちのシルエット
遠慮がちに固まってお弁当を食べる
見たことが無かった黒い服のみんなのことを
大切にしようと誓った
煙になった彼との日々を言葉にした詩人たち
あれからもっと大人になって
何人かのお葬式でも会ったり会わなかったりした
お元気ですか

喫煙所で会ったお兄さんが
ずっと息子のお話しを聴いていたよって
優しかったよって母と妹が
話していた
兄さんがお父さんになったの
二十歳の息子は覚えていない
ぼくは死なないと口にし続けてたパパだけど
死んじゃったんだよね

台風の季節にはよみがえる
熊本では
突然のお葬式が幾つも執り行われているだろう
幾つもの感情 幾つもの言葉 言葉にならない声も 体も
どうして どうして ってさ
告別なんてできるわけないよ
私も彼といつまでも告別できない
 
 

投稿者

東京都

コメント

  1. 飲みに行きませんか。
    ランチでもいいんですけどね。

  2. あんまり思い入れのない祖父母や親父の葬送しか知らないオレには未知の描写だなー。奥さんにはオレより先に死なないでとは言ってある。死に対して特別な感情を持たないオレは奥さんが死んでも泣かないのだろうかと考えると不安になる。

  3. 葬送について、特別な思いのある詩ですね。
    それを詩に 出来る
    たちばなさんは、骨の芯から、詩人ですね。うん。

  4. 圧倒的な解像度と対比で過去と現在を行き来して、強さと優しさで未来を包容するような詩ですね。この特別な7月の日常によって全てが美しくも悲しくもはかなく繋ぎ合わされていて涙腺を刺激します。
    そして、当時青春時代をともに過ごしたかのような妄想に囚われる愚かな男は、あなたのことも彼のこともあなたたち仲間のことも面識(しら)ないで、今の熊本のだれをも面識(しら)ないでいるのだと、突然あからさまになったような気がして、恥ずかしくなったり絶望したりを噛み締めながら8月を過ごすのでしょう。

  5. @トノモトショウ
    さん
    “泣かないのだろうかと考えると不安になる”
    トノモトさんは怒ることが出来る人なので泣くことと同等の役割を持っているのかも。
    自分より先に死なないで欲しいと感じるくらいに大切な人が存在している事実に、私は勝手に心をあたためるのでした。

  6. @こしごえ
    さん
    幾つかのお葬式に参列した記憶の中で、年配の方が大往生したあとのお見送りでは、悲しいけれどどこかやわらかいものを感じていました。
    いつもありがとうございます。

  7. @あぶくも
    さん
    最近AIを通じた自分との対話を重ね、物事の捉え方について言語化しています。宇宙空間のようなところに無数の要素の惑星が浮かんでおり意思とは無関係に近づいたり遠ざかったり。消したい要素があっても惑星は遠ざかることはあっても消えません。忘れることもできません。その時々に近づいている惑星の様子をまとめたもののひとつが詩というかたちです。(おそらく恒星もある。)
    記憶も惑星、己や他への認知も惑星。あぶくもさんの惑星もある。降り立つと、詩、頂いた言葉、写真、ランニング、山などの事情が存在していて、そこに対面の声やビジュアルなどを加えたいなと常日頃思うわけです。もれなく詩に出てくるお兄さん(今おじさん)も付いてきますし、他にも誘いたい惑星もありますがいかがですか。これは公開ナンパです。
    自分は惑星が近づいてきた時にしか詩を書かないのですがこの星にはあなたをはじめ会いたい人がいるから再来するのです。8月は始まったばかりで、最近はマッコリにハマっております。基本は日本酒が好きです。ビールもワインも好きです。

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