
コノハナサクヤヒメ
血類のひややかに葡萄の房に我が意をえたると言うように
下神田商店街のうらぶれた肉屋の二階のたまり醤油の皿にそそぐとき
この〈ひとことぬし〉は障子をしめてとびきりの笑顔で来客する
君の最新の理論ではこの商店街の細い道が湾曲しているのは
すぐそばの神田川の曲がりに沿っているからだと言うのだね
やや中指の節が大きくてそのために未来の嫁さんが夜の底で君を愛する
たいていの感覚的事象はその多くが〈ぶれ〉をこうむっている
わたしの田舎では〈うすい色の醤油〉が土間にラベルの無い瓶に入れられている
そこからひとすじの河のはじまりのようにこの地方の歴史が流れ出す
できるだけ今回はこの田舎の家から語りたいのである
しばらくののちに山鳩が屋根にとまって開催される〈近代五種競技〉の噂話をする
ひどく咳込んで選手の地元の応援団が宿泊する民宿の数を教えてくれる
しからば〈肉食〉の選手たちは多くの肉を食べると言うのである
君の家で飼っている〈あの牛〉もここらで提供するべきであろう
あれはなんと言う品種であったろうか、〈かつらぎ一号〉の種をもらったと言うあの牛だ
世間ではやみくもに〈しもふり〉をありがたがるが、それはまちがっている
地上には〈ほととぎす〉もいれば、〈くさきり〉もいる、その他にも〈つりがねそう〉もある
肉の味と言うものは、商店街の会長さんのように頑固ではいけないのだ
わたしの家の裏に咲いている〈かざぐるま〉を肉質の良い牛のようだと言っても良い
むしゃむしゃとしゃぶっていると、鍋の底から骨が出て来る
この骨の髄がとても味わい深いのであるから、しめは〈よざくら〉である
なによりも暗い夜には肉の味に新月の筋が含まれている
こりこりとして君の妹さんの横顔のように明瞭である
暗い夜に鉄なべをさげて、河原に降りて行くのである
下神田商店街の〈つくもがわ〉の河原に一本の杭が立っている
たしかにそれは肉体的には現在からの意志表示である
視覚の端から〈肉牛〉の方向へと
妻が鍋を洗っている
最新式の言語機能で
この人の精神の姿を
えがきだしている。
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