おしまいもはじまり
はっと思った瞬間
後先考えずに口にふくんだ蝋梅は
あっという間
鼻先にほのかな香りを残してとろけて消えた
ぷっくとまあるい番いのメジロは
ぴぃちゅちゅぴちゅちゅと呼び合ったのかと思うと
ワタシの右肩からカノジョの頭に乗っかろうとしたものだから
とっさにカノジョは読んでいた古本の文庫本をパタンと閉じた
番いのメジロもはじけ出た文字も
眺める間も無く空に溶けていった
すっくと伸びた木々はその幹にさまざまな形状の枝葉を携え
雑多な競争を繰り広げ森を鬱蒼とさせているものの
どっかと腰を下ろして見上げれば
それらは互いに空を分かち合い陽光を享受していた
カレはここのところずっと
20年前の自分の視線に追い立てられているらしい
ぬるっと憂鬱を誤魔化すだけで精一杯のアナタは
ぐるっと綿飴を割り箸に巻き付ける要領で
宙に人指し指を差し出して時代の空気を絡めとっていた
ワレワレはここのところずっと
10年後の自分の足音に急き立てられているのだ
ちっさな仔犬が生まれて初めて雪に足をおろした可愛らしい仕草を尻目に
でっかい鉄の塊のような轟音の装甲車が周囲をねじ伏せるように走り去っていった
キミタチはこれまでずっと
70年間も何をやってきたのだと問われているのだ
どっぷりと深く深く潜って行ったことがあった
ゆったりとそこはとても静かな世界だった
あれはどこであったのか
深いけれど暗くはない
しっかりとそんな場所もあるのだと今なら言える
発作にも似た何かに怯えながらも
滅多に口ずさむことのない歌を鼻歌う
動物や草花や子らが戯れるこの大地の片隅で
きっとおしまいは空なんだろう
きっとはじまりも空なんだろう
ずっと未来もまた空なんだろう
コメント
促音のリズムがあって、でもそこには軽快さよりも硬質なテーマがあるのが目から鱗でした。
トノモトショウさん、ありがとうございます。
促音群像劇詩やってみました。
あれこれ考えてしまいました。群像劇のようにも読めますし、世界情勢のようにも読めます。読後、なんとなく悟ったのは、おしまいも、はじまりも、…未来も、根っこにあるものは同じだということ。
長谷川さん、ありがとうございます。
世界情勢こそまさに群像劇なのではと思うところもありますね。
空しかなくなっちゃったら、我々も地球ももうないんですよね。