遠方

夜が迫る頃
暇を持て余し
畳に座り
遠方を思う

声ありて問う
遠方はどれほど遠きや

思うに、京都の古き趣より東京の繁栄へ
あるいは九州の市井の煙より大阪の幻へ
これらの都、我旅に過ぎし地
皆詩を綴りし

電車に乗りし我が姿を憶う
興湧けば
車中に詩の数句を記す
他人の眼を顧みず
ただ夜に我が信ずる浪漫を書く

月も眠りに就くほど書き続け
京都の遅桜を思い出す
眠りに就かんとする乙女に譬え
宵の内に情郎を待ち
情郎が情歌を歌い
傍に至る時
ようやく眠りに就く

夜深く筆を置けば
周囲に我が家一戸の明かりのみ残る
この夜は
我一人の独唱なり

長詩を作らん
詩を愛する人も
詩を厭う人も
読めば浪漫を宿すように

あの頃の我よ
日々電車に乗り
車の進むのを眺め
春より秋へ移ろい
詩も花雨乱れ散るより晩秋の蕭瑟へ
この地に在り
我だけの浪漫を綴る

浪漫には身近な古寺大社あり
遠方の幽邃と惑いもある

今我九州に在り
あの地は遠方となる
いかに筆を執っても昔の感じ得られず
思うに
我がその地を離れた故
書くのはただ記憶の遠き土地なり

我は遠方の浪漫を求めながら
久しく遠方へ赴かず
記憶にだけ彼女の姿留まる
遠方を捉えんと見つめれば
奈良公園の森へ駆け込み
影さえ残さない
これこそ遠方の幽邃と惑いなり

人は
皆遠方へ赴き
皆浪漫を求めるもの

遠方よ
一生の奔走の果て
汝の姿を見ること叶うや
二十の歳に
詩賦を書き汝と約す
願わくば汝と相見え
我に一生の浪漫を語り給え

投稿者

福岡県

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