幻化景のフレーム (「ゼウスの子」改訂)

 同じ車輌の振動を吸収しながら
 二十四フレームの隙間に
 肉体を滑り込ませるような
 完璧な横顔
 残像ではない目の前の二人を
 凝視し味わう断絶

 幻化景の月光を分かち合う影
 網膜を射抜く双子座の瞳
 理性の重力に調律された
 血の色を透かす切片
 青年がまとう深い抱擁の
 中低音なクラリネットに
 少年が奏でるフルートの高音は
 やわらかな甘さで溶け合い

 ゲーテが頭を抱えて嘆く
 元の退屈な自分には戻れない絶望
 変電所の火花が
 心臓の裏側をかすめていく

 五線譜に躍る黄金の符号となって
 密やかに交わされる声色
 世界を眩惑するほほえみは
 極上のブランデーシロップを
 たっぷり染み込ませたパウンドケーキ
 陶酔を誘う香りに
 闇がひらかれる

 その一点に、かすかに映った
 変わり映えしない通勤着姿の自分
 あまりに小さく
 車窓の夕暮れへ視線を流す

投稿者

滋賀県

コメント

  1. タイトルの通り、幻の風光が、詩的に織りなされている詩だと感じました。
    その連なる詩行は、詩的強度を保ちながら、私のこころに響きます。

  2. @こしごえ
    様
     ご感想のお言葉、とても嬉しいです。^^ こしごえ様の御心にとどきまして、
     書いて良かったと幸せな思いでおります。どうもありがとうございました!
     「ゼウスの子」の過去作を進化させてみました。「美しかった」を使わずに
     詩として、どこまでその美しさを表現できるかな……と。

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