真実の扉

真実の扉

真実の扉の中をのぞいてみたい
扉の向こうには
この世の始まりがあり
宇宙の外の世界があり
運命の秘密があり
僕が存在する意味が
つまびらかに示されている

僕は片手を差し出した
悪魔は枯れ枝のような手を伸べ
僕の手を握った
氷のような冷たい手から
早く逃れたく
腕を引っ込めようとしたが
悪魔は僕の手を離さないままに

「ようござんす
真実の扉にお連れいたしやしょう
その前にひとつ
真実の扉には鍵がかかっている
鍵はないのでありやす
鍵の代わりにあんたの小指を
切り落としてくれ」

僕はぞっとして
悪魔の手を振りほどいた
考え直してみると
あらゆる真実には
蓋をしておくべきではないか
それに
強引に真実を知ったからと言って
僕の日常の何が変わるのだ

悪魔は行き止まりの塀の上に座り
足をぶらぶらさせながら
僕を見下ろしていた

「兄さんガラスを探しに行ったお姫様は
鍵代わりのヒヨコの足を失くしたが
自分の小指を切り落として
兄さんたちを助けたのだがなあ」

全ての真実を知るより
己の小指を惜しんでいるとは
悪魔に思われたくなかった
そう思われずに
真実の扉を諦めたことにするには
どうすれば……

気づけば僕は
悪魔の小枝のような指に
目を据えていたようだ

「いやはや!
鍵の代わりは人間の指だけだ
お気の毒さま」

僕は憎悪を込めて
塀の上の悪魔を睨みつけた

自分の指が枯れ枝のようだから
こいつは僕の指が欲しいのだ
僕の指を欲しがって
ありもしない
真実の扉をでっち上げたのだ

「つまらん、つまらん
あんたは真実の扉に
自ら錠を下ろそうとしている」

真実、真実、真実!
真実を本気で知りたいと
この僕が思っているだと?
悪魔に人間の何がわかる
真実などお前にくれてやる

己が見下ろしているものは
本当に人間かと疑っているのか
悪魔は瞳を揺るがせた

分かりはしない
人間とは何なのか
永遠に分かりはしない
小指ひとつ差し出せず
僕は真実の扉に背を向けたのだ

投稿者

大阪府

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