大阪の夜行

闇が降りてくる
私も積もりに積もった古い思い出を
記憶の奥から運び出す

あの日放課後
また心斎橋へ行きたくなった
数えきれないほど乗った
あの電車
彼女は旧友のように
毎日同じ刻に私を待ち
心斎橋まで届けたあと
黙って去ってゆく

長い通りを一人歩き
思わず歌を聴く
周囲は賑やかな観光客であふれ
私に気づく人はどれほどいるだろう
夜の名残りの寂しい歌を聴きながら
道は
歩めば歩むほど孤独になる

道頓堀の
あの橋へたどり着き
運河を眺めて
この流れがどこへ向かうのか思い巡らす
ここを訪れるたび
舟に乗ったことはない
今回も変わらず
ただ通り過ぎるだけ
あの夜の人々と同じく
互いは人生の通りすがりにすぎない

人々はただ心斎橋を訪れたことを憶えている
あの夜、音楽が響いていたかどうか
誰も思い出さない
私と同じように
舟に乗らなかった人もいて
水面の細やかなさざ波だけを記憶にとどめた
遠ざかっていく波紋こそ
心斎橋の記憶となった

私の夜行は
音楽から始まり
心斎橋の街をくまなく抜けていく
何丁目であろうとも
私が遠ざかる姿を見守っている
彼女は明日
私がまたここを訪れることを想う
街の人々は入れ替わっても
この賑わいに
孤独な夜歩きの私が
欠けるはずはない

今は大阪にいない
もう音楽を聴きながら
大阪の夜をゆっくり歩くことはできない
数キロの道を歩き
心斎橋の通りを渡り
成熟していく心へと向かった

私は大阪を忘れない
大阪もまた忘れはしない
あの孤独な夜行者を
彼女は次の夜を待ちわび
彼が大阪へ帰り
音楽を聴きながら心斎橋へ歩いてくるのを待つ

音楽の果てには
いつも変わらぬ、成熟した心がある
それは大阪だけに宿るものではなく
どこにいても
寂しさを湛えながら、驚くほどロマンに満ちている

次の夜行の時
またその感慨を綴ろう
忘れてはならない
人の一生は孤独でありながらロマンに満ちていると
たった一人きりになるほど孤独であっても
ロマンを抱き続けよう
それがこの世で最も美しいことなのだ

投稿者

福岡県

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