美食の詩

美食の詩

Ⅰ 鎌倉文学カフェ“エティカ”

外国人の波に溺れそうになりながら
見上げてやっと探しあてた
小さな看板
蝶に穴が開いた私にとって
遠いカフェだった
その階段を上り古びた扉をあけると
昨年亡くなった大詩人の本がずらり
壁には“かまくらポエトリーフェスティバル”のポスターとパンフレット
カウンター越しに妖精のようなお姉さんに声をかけた
羽のようなプレートに載った彼ら彼女らは、私の目から食道を突き抜けた
ところが、私が手に取ったのはキッシュなのであった
しかるに口をあけ舌にのせると
何という至福の硬さ軟らかさ味わいであろう
店主がフェスティバルの仕掛け人だと聞いた
近づく私とエティカ
次々と 眼で味わい舌にのせていく
生き生き 鎌倉野菜サラダ
スライスされた鶏肉のすがすがしさ
味を引きしめるバゲット
とうもろこしスープも北の香りと温かさ
三角帽子をかぶった店主は客と話し名刺交換していた
ライブをするとか詩を唄うとか
食材の一片一片に
詩が宿っていた
小町通のカフェエティカ
長谷から北鎌倉へポエ道を行く途中
確かに高貴で美味の一篇の詩を味わった
蝶の私はよみがえり
次の花を求めていく

Ⅱ 金沢堀川町・味噌専門“麺屋大河”

音楽の殿堂石川県立音楽堂
音が豊かに下りてくるホールで
盛り上がり盛り上がるライブ音楽団の
コントラバス奏者が好むという
金沢の至福拉麺
堀川町 味噌専門“麺屋大河”
予定より一時間早く到着した我々は、駅から道を確認しながらたどりついた
小雨なのに
すでに十数人が並んでいた
三五分ほどでカウンターのみの店内へ 二人は奥に座る
棚にはトラのミニチュアがずらり。店名”タイガ”から”タイガー”にかけたらしい・・・・・・
初めに生姜ジュースが提供される これはほんのりした序奏
天体のようなどんぶりが登場
見た目の美しさは
味噌スープの焦げ茶の海に
能登豚チャーシュー大陸がうかび
黄色い柚子皮とおろし生姜が乗っている
磯には白いきざみ葱
角切りメンマが二本顔を出し
白色の船体の卵の君は赤い目玉
それは青い森からやってきたらしい
牡蠣や生姜、イカスミを使った味噌スープ
茶色いスープは辛みの低音で支えている
しだいに深いハーモニーに中和されていく
麺は中太縮れで黄色く歯切れよく
舌触りよく
口の中で軽快に超絶技巧のリズムを刻む
至極至福の味が豊かに降りてくる
二人は天上の大河を進んでいる

Ⅲ 金沢幸町・和ダイニング“しろべえ“

工芸家の夫と小説家の妻
仲睦まじく酒を吞む
二人の案内で
幸町にある和ダイニング&バー“しろべえ”へ。
食通・飲み通のご主人が注文されたのはすべて美味。
まずは石川の地酒“手取川”で乾杯
最初に出された刺身六種盛りがもう、
上品なマダイ、白身のどぐろ、こりこりブリ
赤身のメジマグロ、寝そべる甘えび、純白のたこ
舌に触れた瞬間、一度も味わったことのない、
こりこり感
じわっとめりこむ
この感触といったら!
そして転がそうとすると
舌にはりつき
じわっとやさしく自己主張する
金沢港から仕入れた鮮魚たち
ひときれひときれは
口内から脳内から腸内から
私たちの幸福感を更新させたのでした
美食家愛飲家の工芸家はパレードのように注文し
愛する作家は微笑むことばで歌いだす
天然の岩もずく酢を
豆腐サラダに
ぶりカマあら煮
たいのかぶと煮
豚と玉ねぎの串カツ(三本付)
甘エビの唐揚げ
絶品和食の展覧会
この世の限りのおもてなし

◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇  
詩と音楽と美と料理
人が生きるのに欠かせぬものが・・・・・・

投稿者

神奈川県

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