いくつもの夜を超えて

夜が明けたら朝が来る
明けない夜はないけれど
明けてはならない夜を集めて空に放つ

小劇団花盛りし心斎橋のウィングフィールドだったか
何度目かの虚構パーティーの芝居の夜

牧水の室内階段をのぼり
初めて値段の書いてないメニューを前に
おそるおそる注文した夜

おる？
おるよ
ただそれだけのLINEを交換し合う夜

久々にお互い別の人と見に行った先輩の拾得だか磔磔だかのライブで
少し離れたテーブルにバッサリ髪切った君を見つけて涙が止まらなかった夜

溝川みたいなところに投げ捨てた指輪が黒い闇の中を揺れながら沈んでいった夜

もしも知らない男が出てきたらこのドアが開いた瞬間に
手に持ったヘルメットでどついたるねんとノックした夜

久々に会ったら敬語になってるしなんで？
と問うことすら躊躇った夜

やり場のない怒りに任せて
何度も拳をぶつけることで痛みで怒りを和らげようとしたけれど
それでも収まらないで結局ブロック塀を蹴りまくっていた若い夜

六曜社か、いやあれはあさぬまだったか、円高差益還元（とか言ったっけ？）の珈琲を
啜って飲み会までの時間を潰していた夜

互いの秘密を打ち明けあった気持ちになれた夜

僕を好いてくれる君がいるだけで
世界に飲まれずに対峙できると思えた夜

生まれて初めて感じる2人の何かが混ぜ合わされたような
部屋中に充満した甘い香りがやまない夜

何が悲しいのかもわからないで膝を抱えてうずくまった夜

レンタルビデオ屋さんで何本か観たい映画をふたりで借りてきてひたすらベッドで観ていた夜

つまらない映画だとそのまま互いを触れ合う別の楽しみに移行し没頭した夜

こんなに崩壊したように涙って出るものなんだななんて
冷静なのか何なのかよくわからなくなった夜

傷ついた僕を傷つけた君が抱きしめていた挙句
君の鳴き声が部屋に響き続けた意味不明の夜

少しでも好きの気持ちがあるのなら
別れる選択は絶対しないと決めた夜

遠く離れた僕から連絡のない時間の長さに耐えられなかった君の夜

灰皿に生えた吸い殻の山からまだ吸えそうなのを取り出して再び火をつけた夜

年上の彼氏がいるにもかかわらず
甘え上手な小悪魔のような君が
髪を撫でてみてって誘っているのがまるわかりだった夜

襲いかかりそうな気持ちをなぜか抑え込んだ意気地なしな夜

そんな君を部屋にひとり残して
その日に先輩から10万で買ったスティードに
跨って丸太町を突っ走ってみた午前２時
右京連合とか鉢合わせたら怖いなと思って少し走ったらまた大人しく部屋に戻った夜

そっと部屋に入ると怖かったよって抱きついてきた君を抱きしめ返すものの
その先がまたわからなくなってずっとそうしていただけの夜

2人でも3人でも同時に人を好きになることは悪いことじゃないどころか
むしろ自然なんじゃないのかと思った夜

でもそう言う自分はたった1人でさえ人を好きになったことがあるのかと問うた夜

大袈裟に悪い夢でも見たような素振りで君にしがみついた夜

それを見抜きながらも僕の頭を撫でた君の夜

もう連絡しないししないでくれと最後通牒の夜

もっとはやくにこうなりたかったんだと背後から君に囁いた夜

これがキスだよと口づけながら言葉を流し込むように君に教えた夜

君が瞬時に潤い発汗したのがわかった夜

2人だけの世界が世界の全てであったなら
そのためだけに生きていけると思えた夜

いくつもの夜を超えて　いくつもの朝を忘れた
いくつもの夜を解いて　いくつもの朝に結んだ

夜が明けたら朝が来る
夜が明けたら朝が来る
　

　
　
　
　

#万年アオハル
#中2縛り
#あなたは何歳
#何周イケる