rúːm
*
【 窓 】
私の部屋には大きな貼り紙があって
窓と名乗っている
ときどきそいつをはがしては
あっちへ貼ったり
こっちへ貼ったりして遊んでいたのだが
ある日ふとしたはずみに
自分の胸に貼ってしまった
もう貼り替えるのにも飽きてしまったので
そのままにしている
*
【 扉 】
扉を開けて部屋に入ると
扉があった
また扉を開けて入ると
扉があった
開けても開けても
扉があった
私のうしろには
開けられて腐ってゆく
かわいそうな扉たちの
死骸が連った
*
【 椅子 】
( )が まわる
椅子に すわる
( )は さわる
( )が かわる
椅子に すわる
( )は よわる
おわる
*
【 空室 】
あれがないのだ
ありえないのが
話はついでだし
存在できないか
何もいらないし
だがしかし……
*
【 アリスの部屋 】
蒼いドレスを着せて
鏡の部屋に連れていったら
蝋燭が嫌いだなんて
おかしいじゃないか
びっくりしちゃったんだろう
だって君ったら
逆さまなんだもの
言いたい事あったけど
全部忘れちゃった
*
【 シュレディンガーの部屋 】
二重スリットから覗いた時だけ
部屋は確かにそこに在った
それ以外の時には
存在していない
*
【 パレイドリアの部屋 】
私は外側が私であるが
部屋は内側が私である
それが私と部屋の
相違点
*
【 夜 】
夜の奴ときたら
すっかりふけこんでしまった
だけど夜は
闇の中で常に幸福だったんだ
問題は私の方にあった
私はたかぼ
名前はない
昨日会ったばかりの男だ
コメント
どんな言葉も消えますか。どんな旅路も解放とはならないのでしょうか。素敵な世界。そして消滅する。
ヤン・シュヴァンクマイエルの短編作品みたいなイメージが思い浮かんだけど、そんなの比じゃないくらい洗練されていて、革新的で、何より(名前のない)たかぼという作家性が爆発している。これ延々と書き続けられるんじゃないかってくらい、良い素材を見つけたね。
題は、ルーム?
この詩の数々を拝読して、なぜか 葬列やパレードをイメージしました。
連なっている詩のそれぞれの詩の強度が全体でうまく建築されていて、最後には「私」「昨日会ったばかりの男」に行き着く。自分自身であっても その時 その時が初対面という感覚は常にではありませんが私にもあります。
そして、すさまじい詩の可能性を感じる詩だと感じます。
何と斬新で素敵な。ここで表現されている自分自身とその周りの様々なモノゴトの境界線の曖昧さ、無意味さみたいなものが、理想であり、救いであり、何だかずっと読んでいたい感じでした。
こゝろがとんでもなく自由であり不自由。
なんだかわからなくなりました。
@坂本達雄
坂本さんのコメントはそれ自体が詩ですのでありがとうございます。
@トノモトショウ
褒め殺しですか? それはとても嬉しいことです。ありがとうございます。
@こしごえ
こしごえさんのコメントを見て私自身あらたにこの詩のテーマを考えさせられました。ありがとうございます。
@あぶくも
まさにあぶくもさんのご指摘の「モノゴトの境界線の曖昧さ」を描ければ良いなと思いました。ありがとうございます。
@高坂トーイ
会長お久しぶりです! お元気そうで良かったです。今後ともよろしくお願い致します。