脆弱な神経
真白な部屋の四角い箱には
切り取られた虚空の残骸が渦巻いている
天井から吊り下がる凶暴な鰐が
ずっと俺の喉元を狙っていて
今にも噛み付きそうに思える
その絶え間ない恐怖を説明するには
世界に言葉が足りない足りないんだよ
ああ まったくこれは理不尽だ
身体に巻かれた有刺鉄線の痛み
いつまでも消えることのない闇
追跡者はお前お前お前だろ 知ってるぞ
だが俺は逃亡もしないし停滞もしない
ベッドの上で音のしないラジオを聴いている
耳障りな振動が前頭葉を劈くが
お構いなしに扇情的なオナニーをしてやる
ところで人間は哀しい哀しい生き物で
ささくれ立った本能は自動的に逸脱し
毒を盛った皿まで綺麗に食べ尽くすのだ
ほら 天国への階段が見える見える見える
粛々と登って 戯れに降りて
再びモルタルの床に跪いて息を吸う
反動でゲロを吐いて 最果てにゲロを吐いてさ
この素晴らしき人生を狂わずに過ごせますように
と願いたい
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.050: Title by SEI]
コメント
脆弱な神経、というのが これらの詩行の連なりから絶妙にあらわされていますね。そしてこの詩から迫力を感じます。
終りの3行の着地も好き。
しかし、狂っていない存在って何だろうかなぁ?、と思っちゃう。そう言っている私の部分部分?は狂っています。ふふ。でも、私を取り巻く世界などのおかげで、もっと言えば、関係を持ってくれている存在達のおかげで、私は支えられて、生きることが出来ています。これはとってもありがたいことだ。
この詩の「話者の神 経」が、さまざまな存在の関係性の中で、この素晴らしき人生を狂わずに過ごせますように と願いたい、と願うことが出来るというのが、たとえどんな神経であっても 希望 なんだろうと思います。
言葉を繰り返すだけで狂気を表すことができるのだなと驚きました。
グッドでもバッドでもない微妙な感じにキマってる風な描写が何とも言えずエッジの綱渡り感が演出されていて、最後の願いが染みる。
コメント失礼いたします。
めまぐるしい、思考の渦、を想いました。
人を殺すのは思考で、思考は人を救わない。
そんなことも浮かびました。
扇状的なオナニーってキャッチー。
ほとんどの生活は自慰に似ていると思います。
鮮やかでありながら暗く重いこれらの詩の言葉、陰陽の隠ばかりをコラージュしているようで、読んでいる者に衝撃を与えるのだろうなと感じるのです。