氷上のマテオ

でらんでらん、これは氷の上に立つ
マテオ自身の表現である
裸足で湖に立つ
落葉したばかりのハコヤナギ、でらんでらん
夏はすもぐりで、きらんきらん
特殊な光源がマテオを苦しめる
安心しなさい湖のカバノキの、でらんでらん
舞踏である、心原性の、氷ははるかにひろがるだろう
十一月のとある午後の日射し、でらんでらん
わずかばかりの観客は焚火に手をやり
雪がふりだすばかりに、なだめやるばかり
マテオは裸足で踏み出している
落葉は湖の氷とひとつになり、きらんきらん
かけだしている、とびあがっている
子供ではない、動物ではない
人間ではない
肉体の操り人形
バーバラの言葉が彼に教えたように、でらんでらん
ひふは大気と反応している
ゆびさきは日光ともみあっている
彼のみみは、東の方から、西の方へと、そして天へと
呼吸する、でらんでらん、足のゆびの一点で
不思議の力でくるくるとまわり
マテオは思考しない空気の振動の
髪を神経の束にして、きらんきらん
氷の上は、かたく、精神はこごえて
ジャンプする
そして落下する、ゆがんだ空間のままに
そしてまた
ジャンプする
でらんでらん、舞踏の静まりの今ははじまりのとき
さきほど宇宙は誕生した冬のはじまり
ひとり、だまって、湖を抱いている
マテオの悲しい静まりの歌
でらんでらん
裸足のあしうらの
きらんきらん
氷上をゆく、マテオの、肩も、腕も、足先も
ああ、雪が降り出した
広大な湖のうえに
マテオのうえに。

投稿者

岡山県

コメント

  1. 私たちは芸術を文字で表現している。マティスは絵具で、そしてマテオは踊りで表現している。マテオの踊りはマティスのダンスのようだ。マテオを操っている糸は宇宙(そら)に伸びている。

  2. それでもマテオは踊り続けた
    そして宇宙から伸びる糸を
    マテオは操るようになった
    雪さえも従えて
    マテオは躍り続けている

  3. ありうるもの、ありうる世界、詩の世界がわたしたちを、どこまでも連れ去るでしょう。

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