海にまぐわうひと

肌をあわせるのなら太陽のもとで
副作用を終えたこころがきみの輪郭を明らかにする
そのひとの
夜明け前に旅立つ気配
いくつもの弓をたずさえて
馬の尾もカーボンの糸もその指先に
あたたかくやわらかく曲線を舞うだろう

波にゆだねた手紙が届く
波にゆだねられた手紙を溶いて
鳥居の海岸までは十一里
白い浮標までは十二里
風よりもあたたかい海にまぐわうひと
潮をみる湿度 滲む現像

いっしょにいかないか
海に乱れ挿した太陽のまばたきが
水底の根にとどくころ
きみのさかなを泳がせて
ぎんいろの偉大なからだをひき寄せる
つを抜ける世界を拓かないか
朝の夕の昂る時合いには
溺れそうになるだろう
きみのことを忘れて

太陽が達するとき
そのひと自身が弓となり
ひとつ ふたつと眩みながら
まろやかな海になる
                                                            

投稿者

東京都

コメント

  1. あうらの海、ふたりの沈みゆく海、おぼれることは耳の奥の、深海のすなおな・こわばり、ひとしれず波のうえに、よこたわり、星ばかりの海、深海は天空につうじる。

  2. 落ち着いて安定した詩心のある作風だと感じます。
    この詩には、この詩の話者の海への愛を感じさせる力と空気感があってすてき。

  3. まばゆい夏の海と潮の香り、そして躍動感が伝わってきます。

  4. これは海の詩というより、弓張月の詩なのかな、と読みました。朝になって海に沈む月の状態を「まぐわう」と捉えているのだとしたら、なんて洒落た視点だろうと。

  5. 一行目から何だか心掴まれました。壮大な自然のまぐわいが、エロティックになり過ぎない趣きで、意味の世界を心地良く追いやって、懐深い海にこの身まで抱き寄せられるようでした。

  6. 池田満寿夫は芥川賞「エーゲ海に捧ぐ」で海を女性器に喩えて一世を風靡し、「魅せられて」ではジュディオングは「女は海」と歌いました。この詩はこれらの系譜に連なるものとして私には読めました。ふくよかで(今時こういうことを言うとジェンダーレス衆らに怒られそうですが)女性的で、エロチックながら上品です。

  7. 昔、スピッツの草野マサムネがインタビューで「俺が歌を作るときのテーマはセックスと死だけ」っていう話をしていたけど、たちまこちゃんの詩を読むといつもその話を思い出す。

  8. いっしょにいかないか

    とは!?
    とても惹きつけられて
    気持ちに刺さりました

    気持ちに刺さる詩こそが

  9. 性をテーマにされていると思うのですが、淫靡な匂いはなく、寂しい柔らかさのような感触を覚えました。人間が醸す源泉のような感触でしょうか。「海」が、この詩の根底にあるからなのかな…。

  10. @坂本達雄
    さん。いつも返詩のような美しく鮮やかなコメントをくださりありがとうございます。海の底は天よりも知られていないことが多いのでしたっけ。行くのは怖いので誰かのおこぼれを見たいです。

  11. @こしごえ
    さん。生まれ育ちは自転車で港まで行けるところでした。懐かしい陸橋から港を望み膨らんだ赤い月を見たら、連れていかれちゃってたかなあ。夜の水平線って張りつめてますよね。

  12. @渡 ひろこ
    さん。ボートで浮かんで海に手を入れるとあたたかくて驚きます。西湘や三浦の海は絵の具のマリンブルーを溶いて少し優しくしたようなまろい青なんですよね。

  13. @トノモトショウ
    さん。そうなんですよね。下弦とか上弦とか思い浮かべてました。(月には名前がたくさんあって愛されていて羨ましい。)
    人や海に限らず日々あれやこれやとまぐわって生きていますが、それっていいなと。性的なこと以外の意味もあるのでどちらともとれるように。

  14. @あぶくも
    さん。ハンサムなコメント、ありがとうございます。あらゆるからだも意味も幾重にもして書いたので、海に抱きよせられる心地になってくださり正に本望です。

  15. @たかぼ
    さん。素晴らしい詩評を書いてくださって、夢心地です。3日くらい仕上げられずにいたのですが、婦人科の待合室で仕上げることが出来ました。翻るスカートや甘い声、幸せそうな表情、強張った仕草。そして優しい先生に身をゆだねる自身。泳いでいるみたいで。
    余談すぎますが(そしてこれも界隈の衆にあれですが)男性のお医者さんの方が自分に無いものへの配慮や探究心が感じられて気が楽です。

  16. @大覚アキラ
    さん。えー、嬉しいです。お察しとは存じますが大体毎時セックスのことは考えています。こないだも休日の公園でたくさんの親子連れを眺めながら、この人たちも触れ合って命を呼んだんだなぁ、としみじみしました。

  17. @那津na2
    さん。釣りをするとアドレナリンが出るみたいで、どうせならいっしょにと口説かれているような。
    気持ちに刺さって嬉しいです。
    緩急を付けてじんわり侵入もしてみたいです。

  18. @長谷川 忍
    さん。“ 人間が醸す源泉のような感触”とは、もったいないくらいの言葉を贈ってくださりありがとうございます!海にまぐわうひとは潮を見たり魚を泳がせたりするのですが、そのひとのことを心配している心もあり、寂しいようなざわつきも起こっているようです。

  19. 力強さとほんのり艶やかさを感じました。
    潮の香りが恋しくなりました。
    どうしてこんなしなやかな詩がかけるんだろ?

    *追伸
    某氏の追悼ならいつでもお声かけを。
    こちらにも残念な出来事がありました。

  20. @nonya
    さん。嬉しいお言葉ありがとうございます!書き手のかたちが流動的もしくはふにゃふにゃだからなのかも?

    *ご連絡しますね(^-^)

  21. コメント失礼いたします。

    色々なイメージが波のように押し寄せてきた心地がいたします。
    まろやかな海、とてもおいしそうなスープだなぁって。
    海で出産する方もいるとききました。
    生まれた場所で生む命。
    生態系の循環をおもいました。
    (美しさと怖さもうかびます)

  22. @Yatuka
    さん、ポエティックなコメントありがとうございます。鯨、お好きなのですか?
    自分は港町に生まれ育ち毎日潮風を感じていました。海(もしくは魚)に取り憑かれたように海が好きな人々ともたくさん触れ合う機会があり、海とまぐわっているみたいだなと感じています。
    新月の凪の夜の港が一番怖かったです。
    満潮の夜の浜は美しいです。(個人の感想です)

  23. @ぺけねこ
    さん、ありがとうございます。海は栄養満点ですし薄めて沸かしたら美味しいのかもしれません。
    父が釣り好きな影響で私も多少のするのですが、海や釣りに夢中になっている間は大切な家族のことすら忘れてしまう、そんな気持ちが今なら理解出来ます。
    海にまぐわいにいった人がかえってこられる様、座標として在れるひととして待つのみ。
    かえってこなかったらと想うところが怖さに繋がっているのでしょうね。

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