僕の知る医者
〜あるカリスマ医師に捧ぐ〜
ドリルで穴を開け
そこに軽く差し込んだ楔を
ハンマーで順繰りに強く打ち込む
大きく切り出されたものも
あるとき忽然と見事な直線で割れる
頭蓋の手術かと思ったら
御影石の話だそうで
男はもともと墓石を扱う
石屋
でありました
「死んでしまう前に何をする」
天の声を聞いた男は
病を治す術を学びぬき
晴れて立派な
医者
となりました
「病んでしまう前に何をする」
再び天の声を聞いた男は
中医や予防医学を極めつつ
やがて処方箋の裏に
詩
を書くようになりました
今となっては
患者からも
そうでない者からも
口を揃えて
遺詩屋
と呼ばれているそうです
コメント
どんな風な終わりになるのかとワクワクしながら読んでいましたら、遺詩屋!なるほど、これは素敵ですね!!
病巣に触れる手は、つまり生きている、細胞に触れようとする手、こいつは素敵だ、詩のように熱がある。
私の知っている歯科医師は自分はできれば彫刻家になりたかった、と言っていました。彼は私の歯の治療でときどき思いっきり金槌を叩きます。やめてもらいたいのですけど。歯科もそうですが、整形外科医も彫刻家のような道具をつかいますね。医療ってのは人間相手の作品づくり、もしくは傷んだ部分の修復作業って言えますね。芸術家にも共通する部分があるかもしれません。でも医師で詩人とか芸術家ってのは案外少ない。医師は芸術家寄りというよりも、肉体労働者に近いですからね。体力勝負な部分が多分にありますから。医者を題材に詩を、というリクエストにこたえて頂きありがとうございました。
@さはら
さん、ありがとうございます。
ワクワクしながら読んでもらえたなんて、嬉しいです‼️
@坂本達雄
さん、ありがとうございます。
坂本さんのコメントばかりを集めた詩集を読みたい今日この頃です。
@たかぼ
さん、ありがとうございます。
つか、もー、リクエストにお応えしようと大変だったんだからー(笑)
医者で文学者となれば、森鴎外あたりが真っ先に浮かびますね。しかしこのカリスマ医師の物語、「僕の知る医者」というタイトルなのに、「呼ばれているそうです」で終わるあたりの怪しさを味わってくれてるといいなと思います。
石から起こり遺詩で締められる流れの巧みさにうなります。
死んでからでは……に、どきりとしました。
@たちばなまこと
さん、ありがとうございます。
「」の天の声、気づかせてくれて本当に感謝です。改稿しました!
詩という名の薬を、思います。
@服部剛
さん、ありがとうございます。
ホントそうですね。詩(言葉)は毒にも薬にもなるでしょうから、医師が医師免許を持つのと同じくらいの気持ちで詩人も詩や言葉と向き合うべきなのかも知れませんね。私はなかなかそんな境地に至れませんが、とは言え、一方で広告の裏面への走り書きや、トイレの落書きなどにもある種の効用ある言葉が存在することには希望すら感じたりもします。