蠍
雑踏のさなか
誰にも気づかれず
うごめいているものがある。
中年男の背中を刺し
女子高校生の乳房を刺し
幼い男の子の咽喉を刺し
老婦人のお尻を刺し
OL風女性のストッキングの足を刺し
総理大臣の虚を刺し
野良猫の尾を刺し
枯れ始めたツワブキの茎を刺し
私の
追憶のあわいを刺し
刺されて
ようやく社会が少し
くびれはじめてきた
苦くなってきた。
蠍は、後ろめたさを感じつつ
ゴソゴソ
空気のように
うごめいている。
昨日も。
雑踏のさなか
誰にも気づかれず
うごめいているものがある。
中年男の背中を刺し
女子高校生の乳房を刺し
幼い男の子の咽喉を刺し
老婦人のお尻を刺し
OL風女性のストッキングの足を刺し
総理大臣の虚を刺し
野良猫の尾を刺し
枯れ始めたツワブキの茎を刺し
私の
追憶のあわいを刺し
刺されて
ようやく社会が少し
くびれはじめてきた
苦くなってきた。
蠍は、後ろめたさを感じつつ
ゴソゴソ
空気のように
うごめいている。
昨日も。
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コメント
今回の企画で、作品に優劣をつけるつもりはないんだけど、長谷川さんの作品が一番「蠍の詩」って感じがします。要は決められた設定の中で過不足なくそれを描写して、起承転結がちゃんとあって、最後に詩として締める、その巧さに感服です。
全体の蠍の詩の強度や空気感にある種の緊張感がひしひしと引き締まっていて拝読していて心地好いです。
刺されて
ようやく社会が少し
くびれはじめてきた
苦くなってきた。
ここが特に好き。
良いですね。蠍を何と見るか。他人からの冷たい視線? 棘のある非難? 病気? 失敗? 心の傷? テロ? しかしそれらは病んでいる社会が引き起こしたものであり、蠍自身は損な役目を担わされているのかもしれません。
嗚呼、すてきです。
大人の魅力がダダ漏れています。
刺す場所(事柄)の疼き方をつい想像しました。
自分の中に、蠍がいるとしたら、こんな感じ、やっぱり忌み嫌っているからなのか。
初めは蠍のタトゥーとかなのかと軽く思っていたら、総理あたりからどんどん違ってきて、おおお、これは!となりました。「刺されて」から「苦くなってきた。」の連、とても味わい深いです。
なんだか文春砲みたいだなと、思ってしまいました(笑)
やはり社会には苦みが必要ですね。痛みではなく苦みが。
後ろめたさを感じる蠍が素敵すぎます。
蠍はどうしても毒の強さと負のイメージがあります。
それを逆手にとり悪夢のあとの爽やかさを感じます。
昨日なんですよね
昨日
マジで良い詩です
ありがとうございます
なんというか、人々の心の奥底にある誰もが持ちつつ、無意識にうちに外に投げかけている感情感覚を見事に表しています
素晴らしいです
@トノモトショウ
トノモトさん、ありがとうございます。蠍をテーマにどういうふうに書こうか、迷いました。結局は、社会を刺すというふうに書いてみました。皆さんの蠍の詩を拝読し、その多彩な発想にびっくりしています。
@こしごえ
こしごえさん、指摘いただだいた部分は、自分でも書きたかった部分でした。社会に対しての、痛さや、苦さを表現したいという気持ちがありました。蠍を「空気」のように捉えてみたかったのです。
@たかぼ
たかぼさん、蠍の「後ろめたさ」は、もしかしたら、私自身の後ろめたさかもしれません。蠍を「空気」のように捉えて書いてみましたが、もちろん、どのように捉えてもらってもけっこうです。テロ、心の傷、病気、…視線というのは、興味深いですね。
@たちばなまこと
たちばなさん、ありがとうございます。それぞれの、どこを刺そうか、…実はずいぶん迷いました。刺した箇所が妥当?だったどうか、今も迷っています。
@timoleon
timoleonさん、私の中の「蠍」は、後ろめたいかもしれません。惑いつつ、チクリと刺しています。…気弱な蠍でしょうか。
@あぶくも
あぶくもさん、総理大臣を入れようかどうか、迷いましたが、入れてみました。虚を刺してしまいました。私だったら、身体のどこを刺されるだろう? …などと想像しつつ、書いてみました。テーマを決めて書くというのも、面白いですね。
@nonya
nonyaさん、…文春砲(笑) なるほど、そういう読み方もできますね。苦みが無いにこしたことはないのですが、それだと、やはり社会は成り立たないのかな、とも思います。私が書くと、どうしても後ろめたい蠍になってしまいます。
@足立らどみ
足立さん、世の中を刺しつつも、どこか迷いがあるというか、後ろめたい。毒になり切れない。書き上げて、あらためて読み直してみると、そんな感じもあります。悪夢のあとの爽やかさ。…なるほど、と思いました。
@那津na2
那津さん、ありがとうございます。空気のようにうごめく蠍、というのをイメージしたかもしれません。蠍は、「あなた」であり、「私」でもある。互いが絡み合って、人々の心の奥底にある無意識を浮かび上がらせているのかな、とも思います。蠍。興味深いテーマでした。