作家
昼も短くなって、すぐ日が落ちる
夏の香りは涼しい風に運ばれていく
運ばれてくるのは、ちょうど秋の香りか
ただひたすらに、いたずらに
紙に筆を走らせ、文字を落としていく
そんな時間が好きだったりする
無心になれるから、自分だけの世界に入れるから
ふと目をあげて時計を見る
いや、時計よりも空を見たほうが早いか、それほど時がたっていた
「月が…きれい、ですね…」
そんなことを呟いて、体を休める
ふぅ、と息を吐くと、ずっしりと体が重くなった気がした
今まで外していた重しを再び背負ったように
体が泥になって、地面にへばりつくように
そんな体に鞭打って、いったん食堂へ行く
眠気以上に、空腹感があったからだ
思えば、一食もとっていない、最近
まるで背筋のいいゾンビのように食堂、台所へ行く
昔から、背筋と返事はいいといわれている、どうでもいいが
目を皿のようにして食べ物を探す
数分探したが、見つかったのは、パンだけだった
「買い物に、行かないといけないな…」
金がないが、そんなことを呟きながら、パンをむさぼる
久々に食べたパンは、なかなかしけっていたし、変な匂いもしたが
美味しかった、ちょっと腹が膨れるだけでも幸せな感覚だ
断食、ではないが、ちょっと食べていないと食事がこうも美味くなる
ろくな食事でもないけれど
自室に帰ると、紙が散らばっていた
「あぁ、やられた… 風か…」
窓を開けっぱなしにしていたらしい
しっかりとばらまいてくれたようだ
「いい運動になるか、うん、いい運動だ」
そうでも言わないと、泣いてしまいそうなほどのありさまだった
「部屋は、時々片づけておこう」、と決意した瞬間でもあった
ガザガザと、半ば苛立ちと泣きそうな思いをごっちゃにしながら
紙を集めては分別、集めては分別、非常に面倒な機械作業だ
しばらくして、ふと手が止まった
止めたわけではない、止まった
手には、あの人からの手紙があった
今は一番見たくない、そして一番逢いたい人
そんな人からの、中身は知らない手紙
開けたかった、開けれなかった手紙
一瞬だったが、視界がにじんだ
さっと我に返って、部屋の片づけを再開する
少々ほほに水気を感じるが、気にしたことではない
無我夢中の勢いで、部屋を片付けた
部屋は片付いた、気持ちは片付かなかったけれど
むしろ、ひっくり返された気分だった、思い出というゴミ箱を
手紙一つでここまでになるとは、予想だにしていなかった
少々、驚きだった
てっきり、踏ん切りがついたものかと思っていたが
「…ついてないか… ついてなかったか…」
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