ぬるいワイン
僕たちは永遠だね、と
嘯くあなたの影は消え
悲しみの壁紙に彩られた部屋で
あの日覚えた歌を忘れて
その余白を埋めるために
ぬるいワインを一口啜る
夕闇が私の四肢を切り抜いて
適切な輪郭を失うけれど
微苦い舌先だけが鋭敏になり
思わずこぼれる雫の味が
鮮やかに理性を揺さぶって
誰かに愛されたいし
誰かに罵倒されたいと
声の限りに叫んでみても
黄昏の空に静かに紛れていく
(ベランダで枯れたアネモネが
(赤く爛れた花を落とす
毎月訪れる女の宿命の
下腹の生々しい痛みに反して
私は何者も産み落とさずに
世界に抵抗するとして
浴室の床に広がる罰の色の
斑らに泡立つ様子が
神秘的な美しさを秘めていて
だから私はバスタブの中で
依存する心のループに訣別する
手首にぽっかり空いた穴から
とめどなく流れ出す情念を
飲み干して
眠るように
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.097: Title by 志麻]
コメント
求めてはいけないような危うさの魅力、もっと言えば、艶、を感じます。
そして、地に足の着いた高い詩の強度も感じます。なんていうんだろう、イメージの描写性が強いというのか。うん。
そのワインはきっと赤。その濃厚さから品種はきっとカベルネソーヴィニヨン。奇をてらってマルベックという手もある。そんな手首から流れ出す鉄の味がする生暖かいワインが重すぎる。
様々な赤で統一された鮮烈な映像が浮かびます。
嗚呼、赤い、赤の詩だ。恐ろしいほどに心揺さぶられる赤の詩だ。しかし、何故だか知らん、明菜ちゃんを想像してしまったよ…
鉛の足取りで距離を詰めてくる怖さがあります。歳を重ねた美しさも重なって深い味わい。
アネモネの登場で赤が脳内で破裂するようにひろがる、かっこの中身のスパイスがまた素晴らしい。