典子外伝 — その5 —
まさぐるものたち、極明の表土を耕し
墜落するものたち、パラフィンの焦土と化し
インインと叫ぶ声の、シャクシャクとこだまする
典子は襤褸の高貴のずたぶくろ
絶壁の完全なる円形の黒点の内部に
吸い込まれて行く灰色の宇宙船
完全な交接によって新人類が誕生すると
水中をまさぐるものたち
エンジンの基幹に白金を使用する帝国の
不確実の弾道を追尾する鳥たちは
朱雀・雷鳥・千里を駆ける白馬
そして具体的な手足を遠隔で操作して
原子炉内のゴロゴロとした内臓を腑分けする
典子の巨大な外殻は田園地帯に横臥する
核兵器の放射線は水辺にある岩石の内部を熱している
昼間には見えないあまたある光が夜には
オンオンと手足の表面から発光する
すでにドームと化した都市群のしたたる液体的思考
しだいにカプセルの内部と一体化してゆく
筋肉の必要はなくなっている、人工の皮膚の
脳髄が置き換えられるまではあと少しだ
その後にはあかつきに立つ人型都市として
復活する典子の全身が見えるだろう
噴出するイオンガスと硫黄の煙が
典子の全身から合金のパイプから排出される
宇宙の文明の姿は大陸間を行く典子を生み出し
ただされた人類の狂気と科学の一縷の足跡
ほとんどの言語と文学は葦原に沈下している
海峡をゆっくりと移動する典子
パピルスは波に飲まれて岸辺は壊滅する
文明の歌やピッコロの音楽は海溝へと沈降する
それでもまさぐるものたち、万物のピアノを船体として
モンゴルの沼地に浮遊し、沈潜し、腐蝕する
音楽家たちをボール状にして
暗黒星雲へと放出する、ベテルギウスの方角へ
典子の眼は遠い二重の恒星の方を向いている
タウロンの核分裂して、西陽のように森林を照らす
これらは思考しているのである典子の脳髄が
人類は機関であり、内臓の一部が赤黒い暴走を始めている
さようなら地球、野生の動物たちの叫ぶ声
はやくも電子雲が典子の頭上で巨大化して
オーロラとなる
まるで彼女が夢見ているように。
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