小さくても大きい

「ここに家が建つのよ」

紐が四角く張られ
それから縦横に張られ
これから建つ家の間取りが見える
ここは玄関ここは居間、
ここはきっとトイレ
ままごとのおうちみたい
一人でいっぱいになっちゃいそう

コンクリートを流し込んで土台
柱がたち、筋交いが入り、屋根が載り、
家の形が組み上がるほどに
魔法が動き始める

家を建てるには狭い
と思った更地のうえに
家はきゅっと引き締まって建ち
前庭と駐車スペースが拡がった
玄関が弾けて招くと
テーブルやベッド、洋服だんすにピアノ
小さな戸口に大きな家具たちが
たくさん吸い込まれていった

「小さくたって大丈夫」

今日、我が子を腕にだきながら
魔法の効き目を確かめる

玄関をくぐると
からだは少し、小さくなるの
だって、入ってみたら、ほら
広いでしょ、高いでしょ
日曜日にはママがいて、パパがいて
それからきみに弟が生まれても
家はちっとも窮屈じゃない
友だちが来て、かくれんぼもできる

どきどき息苦しく感じたら
それは家の魔法が解けてきた証拠
その頃には、きみの背はだいぶ伸びてる
そのうちに、いつものように玄関を出て
伸びをして、大きく伸びをして
もう、毎日は
帰らないのかもしれないね

いつか、だれかと
自分たちの家を見つけに行くといい。

ちょっと小さくても、ほら、
新しい、魔法の。

投稿者

新潟県

コメント

  1. 家が建っていく過程を詩にしたものをはじめて読みました。新鮮でした。そして小さく感じる家を小さいお子さんになぞらえたところもほほえましく思いました。

  2. すてきな魔法ですね。そして、魔法の詩だ。

  3. なんと素敵な。家を建てる時の気持ちが家族愛と呼応してて、小さい子にとって家族って魔法ですよね。
    「いつか、だれかと
    自分たちの家を見つけに行くといい。」
    にグッときます。

  4. @たかぼ さん

    @こしごえ さん

    @あぶくも さん

    魔法が伝わったようで、嬉しいコメントありがとうございます。

  5. 家、…もとい家族の歴史は、ひとつの魔法なのかな、と、読後ふと想ってみました。佳い詩ですね。

  6. @長谷川 忍  さん
    コメントをありがとうございます。
    繰り返し継がれてゆく、幸せの魔法であったらよいですよね。足かせや、呪いではなく。

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