言葉
「詩人はみな自殺しろ」
テポドン降りしきる星月夜
レイシズムの呟きが世界を変革するとも知らず
俺は相変わらず無能な言葉を羅列する
「みんな違ってみんな良いとか、あんなの嘘っぱちだと思うな」
「多様性ってのは異常性ってことだからな」
「弱者の詭弁ってこと?」
「ああ、社会はルールやモラルを超越したマイノリティに陵辱されるぞ」
僕が建設した精巧なる性交のためのオブジェは
なんら意味を持たぬまま屹立を繰り返し
やがて失われた太陽にまで到達した
そのコロナから発せられた皆殺しのウイルスが
青黒く穢れた惑星に降り注いだ
そして狂った宗教が自作拳銃で人を殺し
そして狂った戦争が自走砲弾で人を殺し
そして狂った言葉が自己顕示で人を殺し
そして狂った僕はあの幻想の中の高層ビルから思わず飛び降りてしまったのだ
殿元聖 享年42歳(零和0年)
新しい時代のサマー・オブ・ラブに
俺達はLSDの代わりに詩を書いた
コミュニケーションなど存在しないのに
そこに一体感があるように錯覚していた
お互いの深奥を覗き合いながら
別々の方法でオーガズムを迎えるだけでは
何かが産まれるはずもなし
「俺もそっちへ行っていいか?」
「 」
「そりゃ少しは後悔するけどさ、家族のこととか、明日の少年ジャンプとか」
「 」
「だけどもう疲れちまったんだ」
「 」
「だって世界には表現することなど何一つないんだから」
「 」
「なあ、いいだろ?」
「だめだ、君は幸福な詩を書きなよ」
幼子の手を握りながら長い夢を見た
俺と瓜二つの影が森に繋がる扉を開けて
その先の光の中へと消えていくのがわかった
俺は追いかけようとするが
小さな掌を振り払うことがどうしてもできずに
目が覚めるまで立ち尽くして
祈りを捧げた
そうだな、何年後かの未来の話をしようか
AIの台頭によって人間は思考することを止め
言葉は急激に衰退して価値を失くす
これまで書かれたものも
これから書かれるはずのものも
なんら意味を持たない耳鳴りと同じく
一瞬の不快さだけを残して消えていく
きっとそれは正しいことだろう
最後にもう一度言っておきたい
「詩人はみな自殺しろ、俺以外のすべての」
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.057: Title by 桔梗鈴]
コメント
みんないつもありがとう。
三部作のエピローグとして書いた、100タイトルの最後です。お蔵入りもあって、ぽえ会への投稿は全94作となっています。
そんなわけでよろしく&さようなら。
ある意味、優しい詩ですね。
拝礼
さようなら、なの?
一言で言えば怒りですね。偽善への、欺瞞への、暴力への、詩の無力さへの。でもそこに愛は、ある。そしてどうだ、この詩の構造の美しさは。私は美しい建築物が好きなように、美しい構造の詩が好きです。
置き土産にしてはよくでき過ぎているよなぁ。さようならなのか。
愛ある沈黙は喪失となり、狂気への逃避はいつも甘美だ。心肺蘇生だ、胸骨圧迫、人工呼吸、AED頼む。戻って来い、戻って来い。
また、返ってきて〜
作者自身へのレクイエムのような、あるいは詩人の未来を予言しているような…。
長谷川スクラップ帳ファイルに、この詩、加えておきます。