1994年12月、鮮魚部作業場にて
前日退社後
掃除のバイトくんが
いいかげんきわまりない仕事をして帰ったのは
作業場に入ったとたん分かった
それでもいつもの仕事にすぐにかからなければ
年末商戦真っただ中
ぼくの眼下にはひたすら冷たく
七十センチを超えるブリが
圧倒的現実感を伴ってどでんと
まな板の上に在ったのだから
毎日研ぐ出刃で
銀色の腹を割いているとき
スウィングドア打ち破る勢いで入ってきた御曹司店長
ああ、まったく案の定である
ぼくの退社後、それからバイト君の退社後
彼はこの作業場に入ったのだろう
血眼の彼
ぼくの襟首を掴んで
何事か喚いた
もう忘れてしまった何事かを
だけど今でもはっきり覚えている
きゅんと縮みあがった睾丸
腸が動いてぷりぷりこいた屁
彼がぼくに、バイトくんの解雇を告げるよう命じたこと
ぎゅっと握った出刃の感触
それから
掻きだしている途中だったブリのはらわたの
赤黒さも
コメント
映像が目に浮かぶようです。解体作業中の魚の生臭さまで臭って来るようなリアリティ。
@たかぼ
たかぼさん、ありがとうございます。
現在は、シナリオを書いてコンクールに応募するのが執筆活動の中心になっています。
なので「映像が目に浮かぶ」というお言葉は、たいへんに嬉しく、ありがたいです。
自分のペースで、詩も書いていこうと思っています。
今後ともよろしくお願いします。