そのとき光の旅が始まった

そのとき光の旅が始まった

星と星をつなぐように 小さな光をつないでいく そのとき 光の旅がはじまる 目を病んていたのだろう 朝はまだ闇の中を歩いていた 手さぐりで襖をあけると そこは祖母の家だった うすぼんやりと 記憶の光が射している 毛糸の玉がだんだん大きくなる 古いセーターが生まれかわって 新しい冬を越す 穴の空いた手袋 小さな手はさみしい さみしいときは 誰かの手をもとめる さみしいという言葉よりも早く 手はさみしさに届いている そして温もりをたしかめる ふたたび手を振って さよならをすると 手にさみしさだけが残る さみしさの手で ガラスと紙の引戸をあける 敷居の溝が好きだった 2本の木の線路を ビー玉をころがしながら 行ったり来たりして 光の旅をする 冷たい木の線路に 小さな耳を押しあてると 遠くの声が聞こえる 木を走りくる言葉は 風の言葉に似ていて 近づいたり遠ざかったり 耳の風景がさまよっている どこかで 音と音が連結する 音はこだまして 山と山を連結する すると山が近づいてくる 大きな背中のような 原生林を駆けくだり 耳の音は風になって 日なたの匂いを運んでくる 夜は夢の橋をわたる 貨物列車の長い鼓動 誰かがこっそり 山を運んでいるみたい 夢のつづきも虹色の ビー玉を転がしている ガラスの風景はすばやく変わり 闇の速度に追いつけないまま 当てのない光の旅が続く 冷たくて丸い ビー玉の小さな光を 追いかけたり追いぬいたり やがてガラスの遊びに飽きたら 山を越える決心をする 発車のベルが鳴って 初めてその時を知る 始まりの時ではなく 終わりの時でもなく 時と時が連結する ガラスが鉄と連結する 今日と明日が連結する 鉄のひびき鉄の匂い 単線の古い線路が 新しい線路と連結する 古い音と新しい音が連結する ガラス玉が響きあうように 誰かが耳をノックする ガラスのドアが回転する 光がとび出して 新しい旅がはじまる 無人駅になった祖母の駅を ビー玉の列車は あっという間 光になって通過する

投稿者

大阪府

コメント

  1. 最近の住宅は敷居の溝が5mmくらいしか無くてビー玉は転がせないのでさみしいです。いや、私の子は知らないからさみしくはないのかも。
    光って何にでもあるなと思うのでもう少し気持ちを向けようと思いました。

    写真は遺跡のような施設でしょうか?
    窓がフィルムのよう。

  2. たちばなまことさん
    お久しぶりです。
    写真は軽井沢の、内村鑑三記念堂の石の教会の一部です。
    光が連なったような、フィルムは記憶の残像でもあるでしょうか。

  3. yo-yoさんお久しぶりです。
    均等に置かれた文節が、イマジネーション豊かな詩の流れを途切れさせていて
    光のサブリミナルのように一瞬一瞬かいま見え、「光の旅」というタイトルがまさにな表現と感じました。
    私の返信はいつも星のごとくですが
    石の教会素晴らしい場所ですね。

  4. 具体的なひとつひとつの連結される詩行の数々が圧巻です。

  5. ザイチさん
    十年果実のような、星の便りのザイチさん。
    その星と星を繋ぎながら、ザイチさんのステキな森を、ずっと探しつづけている、ぼくを迷子にしないでね☆ 

  6. こしごえさん
    コメントありがとうございます。
    連結と切断と、なかなか言葉はうまく繋がってくれませんが・・・

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