典子・葡萄の蔓の
ボルドーのあたり、雨がはげしく降るときは
葡萄畑のつちくれや小石のたぐいも
流れ落ちる夜の間に
そのあけがた女主人は畑を見て回る
くずれたつちくれを見つけると
まずは転がり落ちた小石から手をつける
彼女は知っている、ここにあった小石が
どれであるのかを、それを見つけて
もとあった場所に戻してやるのだ
それは彼女の父親がそうしていたように
雨のあがった朝には、そのようにしていた
父親から教わった通りにそうするのだ
つちくれも出来る限りもとどおりにしてやるのだ
葡萄の蔓が伸びて行く時には
その先はなにものかをさがすように
ゆるりとのびていくのだ
ボルドーの斜面に太陽の光があふれている
その光が葡萄の葉に命を与えている
このたしかな空気の葉にふれて指にふれて
そして信じている明日の蔓の先
わずかな伸長する未来のありかた
それはまちがいのないこと
このわたしのために
花芽をつけようとする
つちくれと小石と青空の
やさしげな
斜面の
ボルドーの
葡萄の蔓。
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