留守番電話
眠れないのです
明日も 早いのに
それを思えば余計眠れず
時は重たいものですね
母の仏前に坐り灯した蝋燭だけが今、
私を見つめています
灯が みつめているのは
夢のない
黒ずんだ血汐の自分
しんそこ 俯いて倒れ伏した歪んだ顔の
時の重みを支え得ない自分
胸底深く
潮の流れのようにある 音を
きいていたのです
私の血の流れでしょうか
きこえる その音と
まったく異質な響きが紛れこみ
「ノンちゃん、僕だけど。」
それは遠方に住う ただ一人の肉親の声
急に立ち上がり痺れる足がもつれそうになる
リビングで掴み取った固定電話の受話器
「どうしたの?こんな時間に。珍しいね。」
興奮を抑え込み 何かあったのか、とだけたずねる
「何も無いよ。何もないけど、かけたくなったんだよ。」
その一言で、慟哭した
出来ない仕事があったっていいじゃないか。
努力して駄目なら辞めればいい。
からだ壊すほど辛い思いして仕事することなんかない!
僕だって、歯車のネジの一本になれる人間じゃないんだよ。
電話を切ってから 兄の言葉の
ほろ苦い香りのなつかしさに胸詰まらせながら
仏間を見ると
さっき灯していた一本の蝋燭はすっかり燃え切っていました
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