花弁の裏側
久しぶりの青空のもと
公園の桜は満開だった
光の加減にもよるが
満開のソメイヨシノは
雪を抱いた樹に似ている
大きな樹の下で見上げると
視界全体が桜で埋め尽くされ
薄紅の雪が
吹雪のように舞う空間に
時が止まったような錯覚
さまざまのこと思ひ出す桜かな
という芭蕉の句があるが
時が止まったような感覚と
「さまざまのこと思ひ出す」は矛盾ではない
超時間的であるがゆえに
過去の眩い瞬間たちと容易に重なる
満開の桜で不思議なのは
桜で埋められた視界というのが
桜で埋められた宇宙になる点だ
どういうことかというと
私はその公園の立地を知っており
公園の周辺に何があるかもよく知っている
ところが
満開の桜の中に立ってみると
公園の周辺どころか桜しか見えなくなる
一面の桜の世界が一個の桜の宇宙になる
つまり
周りにある筈の外側が
桜で埋め尽くされた主観の光でかき消され
花弁の裏側に空間や時間のはざまができる
「さまざまのこと」は
おそらくこのはざまの中にある
というか
それは花弁の裏側のはざまそのものであり
それゆえに
この朱鷺色の世界を
よりまばゆく感じさせ
より眩しい眩暈に人をいざなう
コメント
桜ってはかなさだったり妖艶さだったり、裏側を感じさせる何かがあるんですよね。
「時が止まったような」と、「様々なことを思い出す」は矛盾でないとの表現も、すごくわかるような気がしました。
一瞬のうちにフラッシュバックしていくような感覚と、優雅な桜の情景が相まって美しかったです。
一瞬のうちにフラッシュバックしていくような、、、まさにそうですよね。僕は、周りにある奥ゆかしく美しいものを
何とか言葉で表現したいと思ってやっていますが、まぁー難ししいですね、、、コメントありがとうございます!