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あなたとわたしの間に
景色を置こう
交差点の照り返しを置こう
部活帰りの学生達を置こう
トイプードルを連れた淑女を置こう
ビルの谷間を彷徨う黒揚羽を置こう
別に何を置いたって
構わないのだが できれば
噂のキャッチボールが出来ないように
疑いのフォーカスが届かないように
妬みのオブリガートが聞こえないように
仲良く並んで甘ったるいタレをかけられないように
あなたとわたしの間に
景色を置こう
とある昼下がり
スコーンを買いに行くであろうあなたらしき後ろ姿が
舗道の花壇越しにはんなり見えるくらい
あなたとはそのくらいが
丁度よい
胸の奥が微かにひりひりするくらいが
丁度よいから
もし間違って
大声で呼びかけてしまっても
あなたは決して振り返らないで欲しい
せっかく
あなたとわたしの間に
景色を置いたのだから
あなたはぼんやりと
想い出に成り果てて欲しい
もう二度と
わたしの唇をだらしなく歪ませないで欲しい
コメント
ちいさな距離感、でしょうか。若い時分はその距離感がつかめなくて悩みますが、そういうものなのでしょう。大人になっても、時々、悩む。あなたとわたしの間に、景色を置く、がすてきです。景色を置く。…ちいさな距離を置く。
「距離を置く」という言葉がなんとなく嫌だったので
景色にしてみました。
自分から遠ざかったくせに、すっぱりとは断ち切れない
人というのは本当に面倒臭い生き物です。