唇
その唇で
言葉のシャボン玉を
際限なく繰り出しては
あらゆる色と形を
貪欲に飲み尽くす
その唇で
まことしやかな嘘を
丹念に織り成しては
曖昧に微笑んだ後に
こっそり赤い舌をのぞかせたりする
女のそれには
別な人格が宿っているらしい
艶やかな色を重ねて
夢と現の境目を
ひらりはらりと舞うのが
とても好きらしい
男は慌てて
鍵のかからない意識の小部屋に
みすぼらしい虫篭と虫捕り網を
取りに駆け出すけれど
未だ彼女の実体を
虫ピンで止めたことはない
今宵
あけすけな罠に敢えて陥り
訳知り顔で浮かれていたら
またしてもゲームオーバー
自分の肩幅の狭さを知る
イルミネーションが明るすぎる
しがない新月の夜に
とりとめもない影を引きずって
仕方無しに苦い水を飲み歩く
嗚呼
投げキッスだけにしとけばよかった
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