その女

雨と乾いた砂、雨と眠った「何か」
それぞれがコピーである
雨とそれ、まだ知らない「それ」
計画された都市のいたる処で
ひたすらに磨かれている、やはり雨
わたしは触れている、ぬれていく雨
乾いた女の肌へと、おぼつかなく認識する雨
クラクションが鳴り、停止される雨
魚類の信仰のように、あわただしく
屋内の閉ざされた部屋より
君は水になって外へと流れ出して行く
鉄の扉の下を、感覚することもなく
流れ出して行く
広い構内のアスファルトの上を水となって
あまりにも世界は不明の閾値を持ち
これらの液体化した自己の何ものかを
探すように広がり、そして雨、まだふりつづく雨
女は静かに傘を広げ
観察される構内の「魂の方」へと
人間のように歩いて行くのである
雨。ふたたびの雨。
雨。ふりつづける雨。
所長室にたどり着くと、ひどい雨
女は傘をたたみ、鍵を開けて中に入る
室内は暗いが、雨の音は聞こえる

はじめて雨は自らが液体であることを知る
駱駝の背中から濡れた自己をひきはがし
あまりに叫びをあげる轆轤を回す
回すゴンドワナ大陸の湖のどこからでも
「わたし」を連れて来ることができる

空が完全に開かれている
「わたし」は空に開かれている
あの雨は女のからだをぬらし
あの雨は流れて女の足をつたわり
あの雨はすでに湖にとけていった
ひらかれたもの
とつぜんに、「わたし」に、ひらかれたもの
雨は止み
雨は完全に止み
雨はすでに過去である
女は服を着て、傘を持ち
アスファルトの上を彼女の部屋へと帰るのである
その途中で彼女は「わたし」に挨拶をする
その時、女は、まったくの、乾燥である
女の中には雨はない
それでも女は「わたし」に微笑むのである
「水」
それとも「雨」
それとも「湖」
いやそのどれでもなく
女は砂
女は乾いた砂
である。

投稿者

岡山県

コメント

  1. だが乾燥した女の中で雨は降り続く。砂の中に雨がある。そしてまたその雨と雨の間には砂がある。つまり女は雨を内包し、雨は女を内包する。「わたし」はそのようにできている。

  2. @たかぼ
    さんへ、どのようにしても、論理性が追いかけて来て、真に自由には書けないようです、たぶんこれも、雨のせいでしょう、雨が止めば、なんとかなるのです。

  3. @坂本達雄
    さん。論理性と自由度のバランスが良くてお気に入りの詩になりました!

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