試着室
試着をし続けている間に
ぼくらはすっかり
年を取ってしまった
兄は定年退職を迎え
父と腹違いの叔父は
ベッドから起き上がれなくなった
会津に帰ると言って聞かないのよ
叔母が愚痴をこぼしていく
店舗は閉店して空地だけが残った
それでも毎日やってくる明日の
服装が決まらないから
ぼくらは試着をし続けるしかなかった
これどう
可愛いよ
そればっかり
きみの好みは熟知しているから
的は外さない
やがてぼくらの身体は無くなり
そんな他愛もない定型のやり取りだけが
いつまでも繰り返される
試着室のカーテンが風に揺れて
世界はそこで終わっている
コメント
書いては消し、消しては書き、
永遠に下書きを続けるだけの
投函されない手紙のような。
@大覚アキラ
大覚アキラさん、コメントありがとうございます。そのようなイメージなのですが、それならば詩など書いてないで整ってなくても良いから投函しろよ、と思う時があります。でも、墓場まで持っていくんだろうな。
現実味のある地名『会津』がとても効いていてすぐ比喩に戻る手法に、一読者は佇むしか無いのでした。
良きなのです。
@たちばなまこと
たちばなまことさん、コメントありがとうございます。叔父は余命を宣告され自宅療養となりましたが会いに行けるような状態ではないようです。先に他界した父も死ぬ間際は会津に帰るんだと言って聞かなくて、やはり兄弟なんだなと思いました。叔父への思いはこの詩に封印しようと思います。たちばなまことさんの言葉、ありがたく頂戴します。ありがとうございました。