蝶
特別な色のない 夜が
麗らかに 舞っている
二つの 肺は
非対称を 否定するように
静かに 揺らぐ
これは流線形の パラドックス
恥じらいは 甘い息
幾何学に酔う 身体
その 悦
超現実の対話は 徒労であろうか
まさか骨肉が 震えるのであろうか
互いの 認識は
擦れ違うばかり か
不気味に 絡み合う
繰れる物質の 氾濫
何処かで 見たはずの
幻覚 いや
収縮 穴ばかりが闇に
浮かぶ 昨日も同じ
ところで どの部分が歪んでいるのか
神は 笑う
突き刺した 痕や
美しい 痣は
僅かな 誤差であると
男 本当に?
女 嘘に決まってるじゃない
下らない遊戯の 下らない策略だ
何一つとして 完全な筋書きなどなく
あらゆる 手段で
愛は 終わる
そう 最も単純な例えで言うなら
乳房の上を 飛び交う
黒い 夜のような
蝶 だ
[TONOMOTOSHO Rebirth Project No.045: Title by 高槻彼方]
コメント
トノモトショウさんの詩はいつも技巧的にプロフェッショナルですよね。さすがですよね。この詩もお題を与えられて作ったとは思えないほど完成されていますよね。蝶という題から、蝶の形をした両肺に思いを馳せ、そこから夜に舞う蝶(蝶は基本的に昼間に舞います。夜に舞うのは蛾です)のような不安定な、あるいは不条理を内包した男女の関係に物語を展開していきます。中央に空白列を入れて羽ばたく蝶の左右の翅のように言葉を配置することで、スタイリッシュな体裁を保つことなどはお手の物です。
サイコサスペンス映画のような、謎に満ちていて、バタフライ効果が、精神のもう一つの世界や、パラレルワールドに影響するかのような。
なんとも言えない不穏な空気感がすごいですね。
視覚的にも左右対称と非対称の行が入り乱れつつそれ自体が蝶がひらりと舞っているような。
螺旋にも見えるね。女性の美しさや妖しさは螺旋が似合う。夜の蝶といえば煌めく螺旋階段を華やかに降りるものだ。知らんけど。
バタフライのタトゥー(シールでも)が鎖骨や肩にある女はいい。
かっこいいなあ!