……とある蛙さんへ 陽だまりの時間
送付された画像を見た瞬間、懐かしさで胸が震えた。記憶がまざまざと蘇ってくる。在りし日の姿。もう会えないのに、またどこかのイベントで遭遇しそうな、そんなリアルなフライヤーの写真。
*
人生半ば過ぎた凡庸な主婦が
自作の詩を携えて
迷路のような夜の底
ポエジーが膝下まで浸水する
ベンズカフェの朗読会で
あなたに出会った
あなたが音頭を取って始まった
都内老舗巡りの飲み会
駒形どぜう、玉ひで、いせ源
詩の仲間と賑やかに酌み交わし
必ず次に会う約束をして
別れた
毎月それが楽しみで
四十を過ぎた主婦には
温かく煌めいた時間だった
あなたの豪放磊落な笑い声は
朗読の時は朗々と響く
テノールとなる
そんな陽だまりの時間が
ずっと続くと
信じていたのに
いつしか途切れて
次の約束も
無くなってしまった
イベントで会う機会も
少なくなり
気にかけつつも
いつかまた…
と、忙しさにかまけていた
突然の訃報に貫かれ
仕事帰りの
重い足取りで歩く城下町
鐘つき通りの鐘楼堂は
憐憫の眼差しで見下ろし
夕闇の街明かりが
涙でぼやけた
ご葬儀も旅先だったので
参列も叶わず
もっと話したかった
もっと会いたかったと
悔いだけが先走っても
詮無いことで
罪ほろぼしのように一心不乱で書いた
詩集『妻へ』の序文
あなた… いや、蛙さん、
あれで良かったですか?
「わかったようなこと書いてるな」
と、ワハハと笑う姿が目に浮かぶ
それよりも今日この会場で
若い世代の詩人たちが集い
蛙さんを偲ぶ
この想いを
きっと空から
温かく見守っているのだろう
*
蛙さん、お疲れ様でした
蛙さんと共有した
陽だまりのような時間は
私にとっては
掛け替えのない
人生の大事な一頁となりました
蛙さんとの出会いに
心からの感謝を
そして最愛の奥さまと
大好きなお酒を召し上がりながら
引越し先の常世の国で
ゆっくり語らってください
コメント
恒星みたいな人でしたね。
@たちばなまこと さん。
蛙さんは私たちの元に降りてきてくれて、恒星のように周りを明るく照らして、またふいに空に行ってしまいましたね。。
ポエトリー・リーディングで、幾度か、蛙さんとご一緒したことがあります。その時のこと懐かしく思い出しながら、拝読しました。
@長谷川 忍
さん。私もポエトリーリーディングで、蛙さんが朗読された姿が、一番印象に残っています。良いお声で響きもよかったですね。。