微熱の海

わたしをくるむあなたの器官を
海と呼んでみようと思う
なまあたたかい夜の渚に
白く浮かび上がるのは
何の兆候なんだろう

わたしは魚になってくるまれる
鱗のない最初の魚
満ちて、引いて
また満ちて
静かに運ばれていく深みで
呼吸を忘れてしまう
はんぶんの月

あたたかさはどこから来るの
昼のあいだに
こっそり貯えてあったの

たくさんの泡が
消え残って
星空みたい
散りばめたのはちいさな願いだから
そっとしみこんでいけばいい
満ちて、欠けて
また満ちて

遠いむかしの
始まったばかりの
赤っぽい夜の渚に
輪郭が生まれる前の細胞たちを
置き忘れてきたみたいだ

投稿者

東京都

コメント

  1. ああこれも良いなあ。
    生なるエロスを感じる。再生への道程を感じる。
    タイトルはもすこしなまめかしいものでもよかったかもしれない。

  2. 母なるものへの憧憬みたいなものを読み取りました。いや、子宮へのリスペクトかな。

  3. 良いですね。
    すごく良い。
    マタニティーポエトリーですね。

  4. 王さん
    変えてみました(笑)タイトルつけるのってだいたい最後に適当です。

  5. トノモトさん
    子宮よりもうちょい手前へのリスペクトかな…
    ずっと泳いでいたいものです。
    ありがとうございます。

  6. あぶくもさん
    コメントありがとうございます。

  7. 柔かさと、懐かしさ、ふくよかさもお作品から伝わってきました。「鱗のない最初の魚」「赤っぽい夜の渚に」、佳い表現ですね。

  8. 長谷川さん
    ありがとうございます。
    前にも同じモチーフから書いたことがあるんですが今回の方が気に入ってます。

  9. タイトル適当なんだ、すごいな
    前のタイトルが、けっこうドキッとした感じあったSF的なクローンが浮かんでらイメージ、作者の意図とは違うとは思うけども。今のタイトルの方が多くの人に広がる感じはします。

  10. ティモさん
    タイトルは最後の最後で1分以内でつけています。ごく稀にタイトル先行のときもあるけれど。
    ありがとうございます。
    孵卵器官、のタイトルはいずれまた使うかもしれません。たしかにSF感ありますよね。H.エリスンとか文体がとても詩的で好きであります。正確にはもちろん訳者の文体ですけど、原文もいつか読んでみたいなあ。

  11. 水彩のワンストロークに変換してゆく作業に思えて、親近感を覚えました。
    全部すてきですが、何気に三連目が好きです。

  12. たちまこちゃん
    (、って一回書いてみたかった)
    ストロークを重ねていくと新しい輪郭が生まれてくるのかもしれないね。なんでも。
    三連目だけは取材に基づくリアリティを意識しています。珍しく。

コメントするためには、 ログイン してください。