kinda slapstick
「あなたってあぶくみたいな人ね。ぶくぶく生まれてきては弾ける。
存在は認識されても実体は誰も知らないシャボン玉みたいな人」
「うまいこと言ってるようで結構失礼」
「あなたって雲みたいな人ね。ふわふわしてて見るたびに形が違って自由そう。
だけど人知れず自分が塵や埃でできてることを知ってる人」
「それもほめてるのかけなしてるのかわからないところが良いね」
「朝までこうしていたいの」
「さらに夜までこうして次の次の次の朝までもこうしていようよ」
「そういう会話と行動が一致してたのは何歳ごろまでだったかな」
「いや今も昔も変わらないよ」
「あなたってつくづく釣った魚に餌をやらないタイプだったわね」
「それは前提の置き方の問題だと思うな」
「一緒にいることに何の前提がいるの」
「ぼくはそもそも釣り人なんかじゃなくて君と海の中を一緒に泳いでる魚のつもりでいたんだけどな」
「それでうまいこと言いくるめた気になってるところが憎たらしいのよ」
「そう言われると黙るしかないんだけどさ。愛ある沈黙もやがては喪失となるって
誰かも言ってたしって結局のところ黙ってないのな、これ」
「黙ってる間に浮気されたりしちゃうってこと?」
「その理解はあながち間違ってはいない気がする」
「愛って動詞なんでしょ、行動しなきゃじゃない」
「一方で結局は言葉をほしがるってこともある」
「言葉なんて初めからなかったら沈黙の可能性を信じられるのかな」
「そんなに人は強くないのかも知れないというのが現時点のぼくの答えなんだな」
「少なくとも黙っていれば言葉で傷つく人はいなくなるよね」
「黙ってる人はいないのと同じことさ」
「それは言い過ぎ。
動かないことは死んでるのと同じだよって言うのと同じくらい言い過ぎ」
「ヤバ。それも言ったことあるな」
「他人に優しくないんだよ、きっと」
「男ってだいたいが自分は優しいと思っていて相手の女性からは優しくない人って言われるらしいね」
「認識がズレてることに気づけない生き物なんじゃないかな」
「そういう認識のズレをテーマにしたアート作品作りたいな。
アートってさ、絵画でも造形でも音楽でも何でも良いんだけど、
そのジャンルや理解の枠を超えて迫り来るものに惹かれるんだよね」
「とにかく越境したいってことでいいのかな」
「越境は旅人的にも嫌いな言葉ではないな」
「あなたは旅人である分人が好きなんだよね、おそらく」
「ぼくはね、娘が生まれたばかりの頃にさ、自分の病みやすい心を言い訳に
アクティビストになれずにいたことを悔やんでいるんだよ」
「311の頃のことね。
アクティビストもそうだけどボランティアすらもできなかったことを言ってるのかな」
「そう、それを忘れたふりでやり過ごしてここまで来ちゃったんだよ」
「今のあなたの方が安定してて人はよっぽど一緒にいられると思うわ」
「ここ数ヶ月間、文字の読めない日々が続いているんだ。
正確には本を開いて文字を目で追ってはいても、まったく内容が頭に入ってこないから、
あたかも本を読んでいるふりをしている人のふりをしているみたいなものさ」
「ふりをしている人のふりかぁ、まどろっこしくていいね。
でもそれいつものやつじゃない」
「そっか季節の変わり目のやつな」
「嘘でも原因がわかってると少しは安心できるものなのかもね」
「で、何の話してたんだっけ」
「さあ」
「しあわせについてだったか」
「漢字で書くと仕合わせの方でしょ」
「そうそう、仕合わせ」
「だね」
「だよね」
コメント
個人的にとても刺さる言葉ばかりでドキッとしました。
会話と行動の一致…
愛は動詞…
@橋大工
さん、コメントありがとうございます。
刺さる言葉があって良かったです。と言うより、こんなシチュエーションの会話で発せられる言葉でも刺さってもらえて嬉しいです。
問答のように、読後のふんわりした感覚、あぶくのような、雲のような。
ふりをしている人のふりでもいいので、いつまでも思考していたいと思いました。
@たちばなまこと
さん、コメントありがとうございます。
ひとり脳内問答なのかピロートークなのか何なんでしょうねー、これは。仕合わせについて考えているのならそれはそれでいっか。みたいな詩ですかねーww