卵の城

卵を割ると中には
砂しかなかった
食べ物を粗末にはできないので
そのまま火にかけると
砂の焼ける匂いがする
今ごろ砂場では妻と娘が
いつまでも完成できない
卵の城を作っていることだろう
もう一品、と思い
鍋に手を伸ばすけれど
指先から砂になって
僕は崩れ始める
何なのか知らない魔法が
解けたに違いなかった
妻と娘が帰ってくれば
既に二人の日常があって
僕はもう散らばった
砂ですらないのだ

投稿者

コメント

  1. 「砂」という単語が出てくるからか、なんとも言えない安部公房テイスト(褒めてます)。いいですねえ、この「始まった時からすでに取り返しがつかない」みたいな虚無感。

  2. @大覚アキラ
    大覚アキラさん、コメントありがとうございます。安部公房、いいですね。箱男と、タイトル失念しましたが、脛からかいわれ大根がはえてくる話が好きです。詩の仲間とお酒を飲んでいる時に、誰かが安部公房は詩人を名乗ってくれなかった、と言っていたのを思い出しました。
    「始まった時からすでに取り返しがつかない」というコメントがツボにはまってしまって、本当にうまいことを言うなあ、と感心してしまった。

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